かぶとむし日記

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野尻克己監督『鈴木家の嘘』を見る(11月26日)。

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11月26日、月曜日。


新宿ピカデリーで、野尻克己監督の『鈴木家の嘘』を見る。



映画『鈴木家の嘘』予告編


長男の死によって巻き起こる家族の混乱と再生を、ユーモアを交えてあたたかく描いたドラマ。


鈴木家の長男・浩一が突然亡くなった。そのショックで記憶を失ってしまった母・悠子のため、父・幸男と長女・富美が嘘をつく。それはひきこもりだった浩一が部屋の扉を開き、家を離れ、世界に飛び出していったという、母の笑顔を守るためのやさしい嘘だった。


(「映画.com」より)
https://eiga.com/movie/87577/


野尻克己監督。この名前、いままで印象がないな、っておもったら、本作が劇場映画の初監督作品ということで、なっとく。



岸辺一徳加瀬亮など出演者もいいし、予告編も興味がわいたので見にいく。


結論的には、いい映画だったし、考えさせる作品だった。


上記の解説に、「長男の死によって巻き起こる家族の混乱と再生を、ユーモアを交えてあたたかく描いたドラマ」とある。


えっ、そういう映画だろうか?


それにこの予告編もヘンだ。野尻監督の本来の意図はこの予告編に反映されているの? まるで予定調和のコメディ映画の紹介だ。


わたしの印象は全然ちがう。


ひとりの人間が自殺する。それには本人のいろいろな想いや事情があるのだろう。その決断に同情できる場合もあるかもしれないし、できないときもあるかもしれない。


しかしそういう当人の事情とは別に、「自死」がどれほど周囲のひとたちを深く傷つけていくものか。それがこの映画のメッセージだとおもう。


日が経つに連れて、家族のひとりひとりが、打ちのめされていく。傷ついていく。家族の誰もが、そのひとの死を自分のせいだと感じる。


父も母も妹も、自分を許さない。自分で自分を攻めたてる。


妹の富美(木竜麻生/きりゅう・まい)は、ボランティアが主催する「大切なひとをうしなったひとたち」の集まりに参加する。この会の描き方も、映画のなかで重い役割を担っている。


身近なひとの死に苦しんでいるひとたちが、鈴木家だけではないことを、この集まりが教えてくれる。大勢のひとたちが、肉親の「自死」、「突然死」に苦しんでいる。


同じように家族を失っても、事情や状況はみんな違う。それでも、集まったひとたちは、それぞれ苦しむひとたちを思いやり、慰めようとする。しかし、いままで慰めていたひとが、急に心のバランスを失い、激しく身を震わして苦しみ出す姿はリアル過ぎて、こちらまで息苦しくなる。



岸辺一徳は相変わらずうまいが、おどろいたのは妹の富美を演じた木竜麻生(きりゅう・まい)という若い女優の自然な演技。なんでもないような現代の女子高生が、次第に苦しみ傷ついていくようすが、よく出ている。それと、彼女が舞う、新体操の練習風景が美しい。



『鈴木家の嘘』特別映像 木竜麻生の新体操シーン解禁!


いい映画だが、見るには少し覚悟がいるかもしれない。予告編も、本編の内容を正確に伝えていない。先のような映画紹介を見て、予定調和の甘い家族映画だと、まちがわないでほしい。



帰り、紀伊国屋書店裏の「磯丸水産」で、ホッピーとまぐろ丼のお昼を食べて、アパートへ帰る。