かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

再び韓国映画『金子文子と朴烈』を見る(7月6日)。

f:id:beatle001:20190709124037j:plain




7月6日、土曜日。曇り。


「川越スカラ座」で、イ・ジュンイク監督の『金子文子と朴烈(パクヨル)』をやっているとわかったので、妻の運転で見にいく。クルマは、市役所の有料駐車場へ置く。


以前、渋谷で見たときは、金子文子のことを何も知らないで見た。映画は、よかったし、金子文子という女性に強い興味をおぼえた。


それから、瀬戸内寂聴の『余白の春』を読み、いま金子文子が獄中で書いた手記『何がわたしをこうさせたか』を1/3くらい読んでいる。


少し前提の知識ができた。で、もう一度映画を見てみたかった。そこへ「川越スカラ座」での上映だった。




映画『金子文子と朴烈』予告編



チェ・ヒソ演じる金子文子は、理不尽な社会に怒りを感じながら、なお明るくて可憐だった。どん底を見てしまった渇いた明るさかもしれない。今回は朴烈を演じたイ・ジェフンの、内面をじっと見つめているような演技にも惹かれた。


金子文子は、幼少から無戸籍者(父母が戸籍にいれなかった)として苦しみ、その後、肉親からも親戚からも裏切られ続ける過酷な人生を生きた。何も信じられない。


朝鮮を欲望のままに支配する日本の帝国主義に反発し、文子は、抑圧を受ける朝鮮人のなかに「同志」を発見していく。


そして、彼女は朴烈(パクヨル)と出逢う。虚無主義者・金子文子にとって、朴烈は唯一の希望であり、全身全霊をかけて愛せる同志であった。


「どうか二人を一緒にギロチンに抛りあげてくれ。朴と共に死ぬるなら私は満足しよう。そして朴には言おう。よしんばお役人の宣言が二人を引き分けても、私は決してあなたを一人死なせては置かないつもりです」


と、文子は裁判のなかで潔く言い放つ。


文子の孤独な人生。両親、祖母、教師・・・だれひとり彼女を助けてくれるものはなかった。


でも、いま彼女は朴烈と出会い、幸せだった。


「朴(パク)と共に死ぬるなら私は満足しよう」という言葉に、金子文子がやっと辿りついた愛と安らぎをみて、わたしは救われた気持ちになった。


映画でも、チェ・ヒソがこの言葉を裁判のなかで力強くいう。


どん底を見てしまった文子。彼女は、アウトローとして生きた。権力に立ち向かう女性は、なんて気高く美しいことか。


韓国映画金子文子と朴烈』は、最高の恋愛映画でもあった。また強い感銘を受ける。



追記



金子文子の一生
以前にもアップしましたが、手短に「金子文子の生涯」を紹介しています。参考になさってください。

藤井道人監督『新聞記者』を見にいく(6月29日)。

f:id:beatle001:20190702112502j:plain



6月29日、土曜日。雨。


角川シネマ有楽町」へ、藤井道人監督の『新聞記者』(企画・立案、河村光庸)を見にいく。


午後3時10分の回をインターネットで予約。早めに有楽町の読売会館へ着いたが、エレベーターで映画館のある8階で降りると、ひとがごった返していた。


ネット予約の発券機の前にも、チケット売り場の前にも、列ができている。


現代の政治の闇に切り込んだ作品として、公開前から注目されていたが、この混雑状況で、それを実感。全国、147館で上映されているらしい。マイナー映画とはいえない。


座席は満員。満席のなかで映画を見るのはひさしぶり。


渋谷のユーロスペース(いまのところへ引っ越す前)で、原一男監督の『ゆきゆきて神軍』(1987年)が上映されたとき、どの回も満員で立ち見が出た。わたしも、立ち見で見た。それをちょっと思い出す。




シム・ウンギョン×松坂桃李W主演 映画『新聞記者』予告



原案は、東京新聞の望月衣塑子記者となっている。しかし、望月衣塑子著『新聞記者』は、自伝的エッセイなので、映画のストーリーは、オリジナル。


医学系大学の新設、レイプ事件の犯人逮捕の取り消し、政権の意にさからうひとへのスキャンダル報道など、実在した事件に近い問題が扱われている。


この映画で怖いのは、内閣情報調査室(内調)。


政権に批判的な人物をチェックし、その人物の過去、現在の生活を調べあげ、汚点になりそうな事柄を探す。それでもネタがなければスキャンダルを捏造する。


わたしたちは、前川喜平氏の新宿風俗店への出入りを一面で報じた読売新聞を思い出さずにいられない(ことさらスキャンダラスに報じられた)。


また、前川喜平氏の講演を依頼した学校に文部省から横やりがはいった事件も忘れられない。前川氏のような問題人物になぜ講演を依頼したか、と学校に質問書が寄せられた。


そこまでやるのか、とおもったが、忖度しないひとに、政権はそこまでやる。


映画の中心のひとつは、政権の闇ともいえる内閣情報調査室。そこへ配属された若い官僚・杉原(松坂桃李)は、政権が問題と考える人物のスキャンダルを拡散する仕事を次々命じられる。「これが官僚の仕事か」、と杉原は苦悩を深めていく。


もうひとつは、委縮する報道のなかで、政権の真実を暴こうとする女性記者(韓国女優・シム・ウンギョン)の活躍。


彼女は、同じく新聞記者だった父が、スクープとして出した記事が誤報だとされ、自殺してしまった過去をもつ。誤報にしたのは政権からの圧力だった。


彼女は権力が牙を剥くときの恐ろしさを知っていた。


映画的にも、緊張感のあるサスペンスとしておもしろい。けっしてむずかしくないし、飽きさせない。人物やストーリーも、複雑でわかりにくい、ということがない。



こういう社会派映画にありがちなのは、テーマの重さにひっぱられて人物がうすっぺらで、作り手の思いだけが上滑りする例。この映画にはそれがない。


登場人物も、新聞記者、官僚のタイプを、類型化ではなく、何人かにシンボル化して描きわけている。


アメリカや韓国の、現実に起こっている政治的な事件を描いた映画を見るたびに、日本ではなぜかこういう骨のある映画は創られないなあ、とよくおもっていた。その不満をこの作品はいっとき解消させてくれた。


これをリアルと受けとめるか、妄想だと考えるかはひとりひとりの自由。でも、見てほしい! 


できれば参議院選挙の前に(笑)。




『新聞記者』モデルはリアル政治 河村光庸さん 寺脇研さん 池田香代子の世界を変える100人の働き人 23人目+α
映画『新聞記者』の企画立案者である河村光庸さん、映画評論家、寺脇研さんがゲスト。聞き手は池田香代子さん。50分くらい所要時間があるので、興味のある方はごらんになってください。




映画がおわってから、国際フォーラムで高橋真梨子のコンサートを見るため、移動。劇場からすぐ近くなので少しぶらぶらして、Rさんとの待ち合わせ時間を待つ。


Rさんは、わたしの妻が足の病気で行けなくなったため、代わりに同行してくれた。雨は小降りになっている。Rさんから到着した、というメールがはいる。

藤沢周平と長久允監督『ウィーアーリトルゾンビーズ』(6月22日)。

f:id:beatle001:20190627115027j:plain


この数日、日付の順序が前後していますが気になさらないでください(笑)。



6月22日、土曜日。雨。


日比谷の「TOHOシネマズ・シャンテ」へ、長久允(ながひさ・まこと)監督の『ウィーアーリトルゾンビーズ』を見にいく。


朝から雨。映画館へ早くついたけれど、この映画館はロビーのようなものがない(わたしの見る映画は、地下だけれど、上の階はあったかもしれない)。


近くへ歩いたらガード下のベンチがあいていたので、雨宿りしながら藤沢周平の短編集『雪明かり』を読む。


新装版 雪明かり (講談社文庫)

新装版 雪明かり (講談社文庫)



江戸時代の話。


市井(しせい)に生きるひとびとの哀愁を、味わい深い文章で描き出すこの作家がとても好き。眠る前、Youtubeの朗読を聴きながら寝ることもある。


江戸の中心は、いまの東京の西に位置する世田谷、杉並ではなく、東の深川、門前仲町、本所など。そこを舞台に登場人物が動く。


現代とかわらない男女の心の機微が描かれるが、なぜだろうか、もっと人物の感情が濃縮されて伝わってくる。


藤沢周平のヒロインは、清潔で美しい(ことが多い)。そばに近づくといい香りがする。


たいていは純愛か片想い。相思相愛でも、境遇がふたりの相愛を許さない。だからより強く心が惹かれ合う。


藤沢周平の小説は、登場するヒロインのように「いい香り」がする。



11時30分より、『ウィーアーリトルゾンビーズ』がはじまる。



『ウィーアーリトルゾンビーズ』予告編



両親を亡くした4人の子供たち。彼らは、両親が死んでも泣けない。彼らは、ゴミ捨て場で遊び「リトルゾンビーズ」というバンドを結成する。


スジを並べてもあまり意味がないし、この映画の特徴を伝えられない。リアリズム映画ではなくて、映像も表現も跳びに跳びまくる。感覚を全開にして見なくてはならない。


タイトルに「ゾンビ」とあるけれど、ゾンビは出てこない。いま生きている人間がほんとうに生きているか、われわれは生きるゾンビではないか、という風刺だとしたら陳腐なテーマだ。


で、おもしろかったか?


わたしにはビミョー。退屈はしなかった。映像の流れに感覚をゆだねていれば、それなりの浮遊感のようなものは味わえる。でも、強く意識をひらかれたか、というとよくわからない。


若いひとたちにはどう伝わったのか?



日比谷から上野へまわる。ひさしぶり、立飲み「たきおか」へ寄る。雨のせいかいつもよりは空き空間があって、カウンターへ立つ。


ホッピーを飲みながら食べるものを物色していると、外の雨が激しくなって、「ザーッ」という音が聞こえてきた。