かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

山田太一脚本『今朝の秋』(1987年)


Youtubeで見ましたが、小さな画面でも、このドラマのよさは、しっかりと伝わってきました。


映画は、ある程度の作品であれば、遅かれ早かれもう一度見れるチャンスはあるのに、テレビドラマとなると、再放送してくれない限り、なかなか見ることができない。こんなとき、インターネットは、とてもありがたい、とおもいました。



むかし好きな男ができ、家を捨てて出ていった妻(杉村春子)を、いまでも夫(笠智衆)は許せないが、二人のあいだに生まれた息子(杉浦直樹)が、癌で余命が数ヶ月であることを知ったとき、元老夫婦は、深い悲しみを共有する。


病の床にあるその息子も、妻(倍賞美津子)には他に好きな男がいて、夫婦のなかはうまくいっていない。


崩壊してしまった老夫婦と破局寸前の夫婦が、もう一度家族のあいだを修復していこうとする物語にもみえるが、甘い解決は最後まで用意されていない。


笠智衆がひとりで住んでいるのは、蓼科。あの小津安二郎野田高梧が、戦後の名作を書いたところだ。


小津映画に出演していたころ、ここに笠智衆は、なんども表敬訪問をしている。


笠が顔をみせると、小津は、「笠さん大丈夫だよ。次回にも笠さんの役は用意してあるから」と、笑いながらいったというようなエピソードもきいたことがある。


そんな想い出の場所を舞台に、笠智衆がじっくりと彼独特の<受けの演技>をみせる。能面のような表情で、話しかけられると、短く「うん」とか「ああ」とか応えるのは、小津映画時代からのもの。


笠智衆の受けの演技が重なるに連れて、ドラマはどんどん厚みを増してくる。この辺が比類ないほど、すばらしい。改めて名優の演技にのめりこんだ。


tougyouさん、教えてくださってありがとうございました。