3月5日、火曜日。雨。
「イオンシネマ板橋」へ、アカデミー作品賞を受賞した、ピーター・ファレリー監督『グリーンブック』を見にいく。
人種差別が色濃く残る1960年代のアメリカ南部を舞台に、黒人ジャズピアニストとイタリア系白人運転手の2人が旅を続けるなかで友情を深めていく姿を、実話をもとに描き、第91回アカデミー作品賞を受賞したドラマ。
(「映画.com」より)
https://eiga.com/movie/89815/
黒人ピアニストがボスで、白人が雇われ運転手。このふたりのロード・ムービーとなれば、これは何かが起こって当然。
先が読めそうな設定だ。
しかし、nonchiさんの熱い映画の感想を読んで、これはあなどれない、とおもい、さっそく映画館へ走る(実際には走ってないけど)。
ふたりの主演がよかった。
黒人ピアニストを演じるマハーシャラ・アリの気品のある抑制的な表情と、感情が外へ露出する実直そうな白人運転手を演じるビゴ・モーテンセンの組み合わせのおもしろさ。
観客は、このふたりが次第に「友情」と「理解」を深めていく、そういう話だろうと、うすうす先を読んでいる。すごいのは、そういう予定調和の予感を超えて、どんどん見るものを奥へひっぱりこんでいく作品の力。
もうひとつ映画が語りかけるのは、ひとはどれだけ差別の屈辱に耐えることができるのだろうか、ということ。
人種、国、貧富、階級・・・いろいろあるけれど、なぜかひとはひとを差別する。蔑む。自分が少しでも優位であるとおもえば、上から見下し、尊大になる。そういう差別から与えられる屈辱にどれだけひとは耐えられるのか。黒人ピアニストの苦しい表情は、そのことの過酷さをわたしたちに強く訴えてくる。
才能に恵まれた黒人ピアニストが、演奏中は白人客の拍手を浴びながら、終わると差別の対象になりかわる。
ピアニストの楽屋は、まるで物置のように狭い。というか、物置そのもの。演奏がおわって食事をしようとするが、この演奏会のメイン・プレイヤーなのに、ピアニストは席にすわることが許されない。
この南部ツアーは、黒人ピアニストが、富裕層の白人客を相手に演奏するコンサートで、黒人客はいない。ピアニストの演奏はすばらしいが、それでも、彼は対等には扱われない。演奏がおわれば、ただひとりの黒人であるにすぎない。
裕福な白人客への黒人ピアニストの演奏は、よそいきのプレイ。内容はすばらしくても、言い方を変えれば「仕事」。彼の心の奥には、差別の屈辱が根を張っている。
それが白人のレストランから締め出されて、黒人バーへいく。彼がその店に出演している黒人バンドと演奏したときの迫力は、見ものだ。ピアニストは、「仕事」ではなく、そのあいだだけ、屈辱から解放され、音楽のなかに陶酔していく。
nonchiさんがおっしゃるように、見ているこちらまで声をあげ、からだを動かしたくなるような、黒人音楽の醍醐味を映画は味あわせてくれる。
主演ふたりのほかには、白人運転手トニーの妻を演じたリンダ・カーデリニという女優がよかった。おとなの女性のかわいらしさが、この男性ばかりの映画のなかで、華を添える。あんなガサツな男に、どうしてこんなすてきな奥さんが、って嫉妬したくなる(笑)。
彼女だけは、映画のはじめから黒人を差別する意識をもたないことが、ある演出からわかるように描かれている。それがエンディングに生きてくる。
説明不可。
映画の終わりのシャレた「ひとこと」は、ご自身でごらんになってください(笑)。
映画『グリーンブック』について参照したnonchiさんのブログを2つあげておきます。
https://nonchi1010.hatenablog.com/entry/2019/03/03/230624
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帰り、カレー定食とホッピーでお昼。いい映画を見たあとは、冷たいホッピーがうまい。