かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

もう1度白紙で彼のことを知ってほしい〜ジョージ・ハリスン、ソロの軌跡


ジョージ・ハリスン、ソロ後期001ジョージ・ハリスンのソロ最高傑作アルバムは?


一般には、ソロ第1作のオール・シングス・マスト・パス(1971年=国内で発売された年です)があげられることがおおい。ジョージというと、この作品だけが唯一の傑作とおもっているひとも少なくないようだ。このアルバムには、ビートルズ後期のジョージの勢いがそのまま2枚組(LPは3枚組)のなかにつまっている。しかし、これだけをジョージの音楽だとおもいこむと、そのあとのアルバムがすべて力のない退屈な作品におもえてしまう。


ぼくは、1970年代のはじめ『オール・シングス・マスト・パス』をLPが擦り切れるほど聴いた。解散後のなかでは、ジョージの作品に一番注目した。

All Things Must Pass (30th Anniversary Edt)

All Things Must Pass (30th Anniversary Edt)


だから、次の『リヴィング・イン・ザ・マティリアル・ワールド』(1973年)を聴いたとき、随分ジョージが非力になってしまったようにおもった。『オール・シングス・マスト・パス』とパワーが違いすぎる。スライド・ギターと泣くようなヴォーカルを情けなく感じたのだ。

Living in the Material World

Living in the Material World


『ダーク・ホース』(1975年)、『ジョージ・ハリスン帝国』(1975年)、『331/3』(1976年)と段々ぼくのジョージ熱は冷えていった。


ぼくはそれでも次のジョージの新作『慈愛の輝き』(写真2:1979年)を買った。これは素晴らしいアルバムだった。

慈愛の輝き (CCCD)

慈愛の輝き (CCCD)

しかい、この作品のジョージは、ぼくの好きだった『オール・シングス・マスト・パス』の彼とはあまりにちがっていた。


ぼくは、自分が『オール・シングス・マスト・パス』を信奉するあまり、ジョージの音楽を思いちがいしていたのではないか、とおもいはじめた。『慈愛の輝き』の透明感あふれるヴォーカルとサウンドはぼくにとって衝撃だった。ジョージのめざす音楽が見えてきたような気がしたのは、このアルバムからだった。


次に発表されたアルバム『サムホエア・イン・イングランド』(1981年)も、ジョージらしい作品だ。どこか寂れた感じの哀愁があるが、それもジョージ独特の味わいだった。ジョージにロックン・ロールのパワーを要求しても仕方がない。もっとひっそりと静かに聴く音楽なのだ。そのことが段々わかってきた。意識を切り換えると、ジョージのお仕着せしない優しい音楽が心にしみてくる。


想いは果てなく ~母なるイングランド (CCCD)

想いは果てなく ~母なるイングランド (CCCD)


当時酷評された『ゴーン・トロッポ』(1982年)も、いま聴くと実に楽曲がいい。ジョージのヴォーカルもサウンドも明るさをとりもどしている。このアルバムは、アメリカのチャートで100位にもはいらなかった、という。残念ながら失敗作の烙印がおされてしまった。しかし、いまジョージ・ファンのなかで、この作品は再評価をあつめているようだ。ぼく自身も、むかしより現在のほうが好きな作品だ。

ゴーン・トロッポ (CCCD)

ゴーン・トロッポ (CCCD)


長い5年の沈黙のあとで、大ヒット・アルバム『クラウト・ナイン』(1987年)が発表される。優れた楽曲がいっぱいで、これをジョージの最高作品とあげるひともおおいだろう。シングル「セット・オン・ユー」が大ヒットした。

クラウド・ナイン (CCCD)

クラウド・ナイン (CCCD)


ジョージは、ボブ・ディランロイ・オービソンジェフ・リントム・ペティらとトラベリング・ウィルベリーズを結成してアルバム『ヴォリューム 1』(1988年)を発表。こちらも大ヒット。いままでの沈黙がうそのように、ジョージの活躍がはじまる。


しかし、それも長くは続かない。もともとメディアに出ることに興味のないひとなのだ。ロック・ビジネスに失望もしていた。自信作『慈愛の輝き』や『ゴーン・トロッポ』に反応しなかった音楽ファンにも、ジョージの関心はうすれてしまったのかもしれない。


『クラウト・ナイトン』で華々しく復帰したものの、その後静かにフェイド・アウトし、ほとんど音楽界の前面に姿を見せなくなる。
唯一の例外が1991年のエリック・クラプトンとのジャパン・ツアーで、これを見ることができた日本人はほんとうに幸福だった、とおもう。ジョージのコンサートを見たあの時間は、奇跡のような夢の時間だった。

ライヴ・イン・ジャパン / ジョージ・ハリスン with エリック・クラプトン and ヒズ・バンド

ライヴ・イン・ジャパン / ジョージ・ハリスン with エリック・クラプトン and ヒズ・バンド


1987年に『クラウト・ナイン』が発表されて14年がたち、ついにニュー・アルバムが発売されないままジョージは、2001年11月29日(日本時間では30日)、脳腫瘍から全身に転移した癌のため他界した。そしてそれから1年後、遺作となった、そしてファンが待ちに待った15年ぶりのアルバム『ブレインウォッシュド』(2002年)が発表された。

Brainwashed

Brainwashed


ジョージ・ハリスンの音楽は、パッと入りにくい要素がある。彼の音楽の方で、ファンを選んでいる、といえるかもしれない。
まずは白紙でジョージの作品にふれてほしい、とおもう。最初に聴くのはポップなつくりの『クラウド・ナイン』がいいかもしれない。


ぼくは「ビートルズ探検隊」というメーリング・リストで、つねにジョージのソロ作品の魅力を語っている。会員のおおくが、「またかよ」とおもっているかもしれないが、ぼくはそれでも懲りずにジョージをおおくのひとに聴いてほしくて、彼についてなお投稿を続けている。


ジョージ・ハリスン、この3作

  1. リヴィング・イン・ザ・マティリアル・ワールド』(1973年)
  2. 『慈愛の輝き』(1979年)
  3. クラウド・ナイン』(1987年)