かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

「父と暮せば」

父と暮せば 通常版 [DVD]
広島に原爆が落ちたとき、ピカの光を逃れたひとたちと、まともに浴びてしまったひとたちの差は偶然でしかない。ピカの熱で飴のように熔けてしまった市電に乗りあわせながら、座っている位置が光を遮っている場所で助かったひともいるとか。

美津江(宮沢りえ)は、自宅の庭に父(原田芳雄)といながら、被爆する。落とし物を拾おうと屈んだ美津江は、石物の陰になって助かり、父はまともにピカを浴びて死ぬ。その父を助けられないまま逃げたことが、美津江の心の傷として残る。
原爆投下のもとで、どれだけの夫婦や親子、家族がこうした偶然で生死を分けたことだろう。生き残ったものも、目前で最愛の人たちを失い消えない心の傷を負い続ける。
「私は幸せになってはいけない」と考える美津江も、癒せない心の傷を負っているひとりだ。

父と暮せば」は、映画というより舞台劇を思わせます。宮沢りえの熱演を原田芳雄が飄々と受けています。それにしても、「たそがれ清兵衛」(山田洋次監督)以来、宮沢りえの女優としての充実ぶりはすごい!

この作品には、もうひとり密かに美津江に好意を寄せているらしい青年(浅野忠信)が登場します。彼らしい無表情で、数シーンで出てくるだけですが、存在感がたっぷりです。浅野忠信が出演する映画は(それが主演であれ、端役であれ)、現在の日本映画のおもしろさを象徴しているような気がします。
父と暮せば 通常版 [DVD]
2004年/監督:黒木和雄/原作:井上ひさし/出演:宮沢りえ原田芳雄浅野忠信