かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

成瀬映画、美術監督の苦心

■中古智・蓮実重彦著「成瀬巳喜男の設計」(筑摩書房

成瀬巳喜男監督の作品で、長年美術監督をつとめた中古智(ちゅうこ・さとし)氏へ、蓮実重彦氏がインタビューしたものです。ぼくなどは、映画のなかで美術監督(映画のセットをデザインし、つくっていく)の役割をほとんど知らなかったので、成瀬映画だけでなく、日本映画と美術監督の関係がわかって、興味深い1冊でした。

成瀬作品を見ていると、いまでは懐かしい日本の町並み、横丁や路地がたくさん登場してきますが(まるで、昭和風俗歴史館みたいだ)、それもほとんどセットでつくられたようです。たとえば、「浮雲」の戦後のバラックが立ち並ぶ町の様子、さらに「山の音」の、山村聡原節子が住んでいる家の前から奥に広がる階段と雑木林、あれもセットといいますから、びっくりました。

小津さんは、家の中があって、その向こうに庭があり、さらにその先は隣家が空間をふさいでいるので、セットは広がりをもたせずつくられるが、成瀬映画では、家の向こうに隣家があっても、さらに背景に空が見えたりする‥‥など両者の作風のちがいも比較されています。ただ、読んでいても、セットへの知識がなくて想像でおいつかない個所、理解できないところもありました。

映画は総合芸術だ、といってもどうしてもぼくが想像できるのは監督の演出、役者の演技、くらいでしかありません。美術や照明、カメラなどの役割がどのようにかかわるのか、そういったこともこれから少しずつ知っていくと、映画を見る楽しみがもっと広がりそうです。

成瀬巳喜男の設計―美術監督は回想する (リュミエール叢書)

成瀬巳喜男の設計―美術監督は回想する (リュミエール叢書)