かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

つげ義春「苦節十年記」/「旅籠の思い出」〜その1

つげ義春全集 (別巻)

つげ義春の新作マンガが読めなくなって久しいですね。季刊マンガ雑誌『ばく』つげ義春の連載をバックアップするように発刊されたとき、毎号とって楽しみに読んでいました。あの中から無能の人が生まれたわけですね。その連載が完結しないまま、いつしかつげ義春は連載をストップし、『ばく』も休刊になってしまいました。それも、もうずっと前の話です。

いまつげ義春自分史」で見たら、

1984年(昭和59) 47歳
季刊コミック誌『ばく』が創刊され、久しぶりに作品を発表。毎号執筆を続けるが、マイナー意識の強い自分が雑誌の主役にされたことに当惑する。

ノイローゼは発作性から慢性に移行し、気鬱の日が続く、仏教書をしきりに読む。

とあります。そして、、、

1987年(昭和62年) 50歳
春先から持病の強度の発作が余震のように襲い苦悶する。座禅やヨガ、漢方薬によって窮地を脱するが、仕事はできず、そのため『ばく』も廃刊し、また休筆に追いこまれる。

と書かれていますので、『ばく』は4年ほど続いたんですね。それから新作マンガを発表してないとすれば、最後の作品から18年が経つわけです。

つげ義春のファンは、マンガそのものだけでなく、つげ義春という表現者に惹かれているので、彼の書くエッセイ、旅もの、夢日記、イラスト、ともかくつげ義春に関するものならなんでもいいのです。ですからマンガ作品でないエッセイ本もファンは喜んで手にします。

つげ義春全集 別巻』には、こうしたマンガ以外の作品が集められています。

■旅籠の思い出

旅ものは、貧しい旅籠、寂れた温泉を求めての旅……具体的に場所が明示されながら、つげ義春の印象が淡々とつづられています。このエッセイを片手につげの辿ったあとを旅したいものですが、ほとんどが約30年前の旅をつづったもの。いまその温泉地がどのように様変わりしているのか、わかりません。

しかし、旅とつげマンガの関連を知ることも楽しいですし、つげ義春の撮影した写真やイラストを見ながら、寂れた温泉地に思いをはせるのは、なんとも心がやすらぎます。

つげ義春夢日記

つげ義春夢日記は、びっくりするくらい鮮明です。しかも、現実ではとても想像できないくらい夢ならではの奇妙なイメージがあとからあとからつづられて、連日こんな夢を見ていたら、つげ義春でなくても神経がおかしくなりそうなくらいです。

自分であまり夢を見ないものだから、こんなに夢を鮮明に記憶し、文章や絵で表現できることにまずおどろいてしまうのですが。それから性的なイメージが多いです。つげ義春は、夢だからとはいえ、女性への生々しい欲望をあけすけに記録しています。この大胆さに凄みを感じるのですが……。

昭和47年7月4日
林の中を村人がゆかたを着て、盆踊りのときのように、にぎやかに散歩をしている。私と妻(肉感的な見知らぬ女)もゆかたで夕涼みに出る。

突如木陰から痴漢が現れ妻を強奪しようとする。私は痴漢に足払いをくわせようとするが、鬼畜のような男の体は棒のようにかたく、逆に私は組み伏せられてしまう。

男は元プロレスラーで、思いきった技をしかけてくる。私は「スルメ固め」の必殺技にかかってしまう。腰のあたりをスルメが火の上でそり返るように巻かれ、両足は左右に開いたままで、立ち上がることもできない体にされる。同時に聾唖(ろうあ)にされてしまった。痴漢は妻をさらって逃げた。

私はカタツムリのように這って、ようやくわら葺きのわが家にたどりつくと、妻が痴漢に犯されている。私は隣の布団に横になり、二人のさまを絶望的に眺める。妻は動物的なポーズで責められ、私からは経験できなかった奥深い快感を味わっている様子。

昭和51年8月9日
どこかの音声でマキ(注)と二人で入浴していると、脱衣場のほうに男客が来た気配がする。マキの裸を男に見られるので、早く上がるようにせかす。

ふと、浴室の壁に小さな扉があるので開けてみると、便所だった。便所の中は総タイル張りだが、濡れていて不潔な感じがする。すぐ扉を閉める。

パンツをはいて、さっき男の気配のした脱衣場へ行くと、そこは銭湯のように大きな浴室で、若い女が二人いる。自分は女の下半身にばかり視線が集中してしまう。マキはあとから上着をつけてきたが、下半身は露出させたままでいる。他の男に見せようとしているかのようだ。

昭和51年12月24日
和服を着たままの人妻が、海に腰までつかりながら釣具の新製品を客に説明している。彼女は女社長。自分もそばでそれを見物している。
   (中略)
客の去ったあと(彼女の下半身は水面下で裸)私は欲情し、彼女の背後に近づき(拒絶されるのを予期しながら)陰部へ手をさしのべると、彼女は意外にも興奮し濡れている。遠くの浜辺にいる人々に怪しまれぬよう、自分の上半身を彼女から離すようにして、背後から挿入する。不自然な格好で身体を反らせているので先端が少し挿入されただけだが、それがかえって刺激的で、私はすぐに発射してしまった。

◆注:マキさんはつげ義春夫人です。

比較的イメージしやすい性的な夢を並べてみました。もちろん、すべて性夢ばかりではありませんし、もっと不可解な夢がたくさんありますが、どこにもかすかに性の匂いはついてまわります。

9月4日に続きます。