かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

成瀬巳喜男監督「女が階段を上る時」


女が階段を上る時 [DVD]
少し前に見た「銀座化粧」は、銀座裏のバーへ勤める女性(田中絹代)の日常を描いた作品でした。

女が階段を上がる時」も、ホステスものですが、同じ銀座でも、高級バーの「やとわれママ」を高峰秀子が演じています。


■あらすじ

トラックに轢かれて夫を亡くした圭子(高峰秀子)は、銀座のバーのやとわれママをしている。圭子は、男性客との間に一線を画し、特定のパトロンをもとうとしない。しかし、そのために、店をやめた女の子からお得意客を奪われたりして、経営はおもわしくない。

経営者からの、しめつけは厳しく、職場以外での圭子の表情はいつも暗い。

圭子は、結婚や、自分のお店を持つことなどに、明るい先行きを考えてみるが、どれも思うようにいかず、唯一愛情を感じた男=藤崎(森雅之)は、転勤で大阪へ去ってしまう。

つかのまの恋愛も実ることなく、圭子は今日も客の待つお店の階段を上がる……。

圭子は、いくつかお店を変わるが、その店はどこも2階に「仕事場」があり、日常からやとわれママに圭子が変貌するのは、2階への階段をあがるときです。彼女の暗い表情が、階段をあがるとき、お店用の「笑顔」にかわっていきます。

小さなエピソードはいくつかありますが、大きな筋立てがないのは、成功している成瀬映画の特徴でもある。綿密に細部を描きこんで、派手な生活をしているように見えても、実際にはストレスばかりたまっていく、圭子の生活を厳しくみつめる視線は、容赦がない。つかのまの幸せを圭子は、藤崎(妻帯者)との恋愛に見出しますが、次の瞬間には、藤崎の大阪転勤で、幸福に酔う間もありません。

芸者もの、ホステスもの‥‥これも、水商売を扱った成瀬映画の1つのラインでしょうが、どれも水商売の華やかさとは無縁の厳しい生活が淡々と描かれています。見ているのが苦しくなってくるような作品ですが、これがいやなら成瀬巳喜男作品は鑑賞できないでしょう。なんという濃密なリアリズム!