かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

ゲイリー・ムーア『スティル・ゴット・ザ・ブルース』


1990年発売のこのアルバムが家のなかから見つかったので、久しぶりに聴いてみた。ハードロック・ギタリストが、ロックの原点=ブルースに戻ろう、と挑戦した意欲作である。

しばらくぶりに聴いてみて、自分でもびっくりするほどよかった。80年代には、そこそこ彼のアルバムを聴き、ライヴも2度見にいったのに、90年代にはこのブルース・アルバムを最後に彼のアルバムを聴かなくなってしまった。特に理由もない。彼の、ブルースに挑戦しても、結局ブルース色の薄いサウンドに、段々興味を失ったような気もする。

しかし、90年代当初までは、ぼくは彼の作品は発表されるとよく聴いていた。

アルバム『スティル・ゴット・ザ・ブルース』のころは、御大アルバート・キングがまだ健在で、ゲイリーは、アルバートの代表作の1つである「オー・プリティ・ウーマン」を彼とギターで共演している。音数の多いゲイリーのギターと、あくまで自分のペースで、音数少なく枯れたギターの音色をプレイするアルバートのかけあいが楽しい。


Still Got the Blues
泣きのギタリスト、ゲイリー・ムーアが思いっきりギターを泣かせるのは、表題作である「スティル・ゴット・ザ・ブルース」(ムーアのオリジナル作品)。ここまで泣くと、ブルースなのかな? という疑問はさておいて、目をとじて彼のギターをじっくり味わってみた。ブルースをやっても、なかなか黒くならないゲイリーのヴォーカルとギターだが、これはこれですばらしい。

スタンダード曲でいいのは、「アズ・ザ・イヤーズ・ゴー・パッシング・バイ」。これをぼくは、アルバート・キングのレコードで、なじんでいたのではないかと思うが……。表題作に続いて、これもムーアの泣きのギターが大活躍する。サウンドにはジャズ的なアレンジもほどこされて、その感じがすごくいい。もともとがジャズ・スタンダードだしね。

アルバムの異色作は、ジョージ・ハリスンが作曲した「ザット・カインド・オブ・ウーマン」(ジョージは、未発表)を、ゲイリーがこのアルバムでレコーディングしていることだ。

ジョージは、この曲をエリック・クラプトンにプレゼントしたが、エリックは、ジョージからプレゼントされたうちの2曲から1曲を選択し、「ラン・ソー・ファー」を自らのアルバム『フロム・ザ・グレイドル』に収録した。

それで、残ったこの曲をもらい受けて、ゲイリー・ムーアがレコーディングしたというわけである。ゲイリー・ムーアジョージ・ハリスンの交流なんて、当時は知らなかったが、ジョージの交流範囲は広い。その後、ジョージがイギリスで行った選挙応援(マハリシ・ヨギの系列の立候補者だったとか)で、ジョージがミニ・ライヴを披露したとき、最後の「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」で、ゲイリーは、泣きのリード・ギターを弾いた。

ゲイリーは、ジョージの「ザット・カインド・オブ・ウーマン」をおそらくジョージの原型をくずさず歌い、演奏しているのではないか、とおもう。ただ、現時点ではジョージ自身が歌うヴァージョンが公表されていないので、比べようがない。ジョージの未発表曲集が出たときに、聴いてみたい曲の1つである。

きっとゲイリー・ムーアは、若き日のエリック・クラプトンが、彼のギター・ヒーローだったのだろう。

ジョン・メイオール&ザ・ブルースブレイカーズ・ウィズ・エリック・クラプトン(紙ジャケット仕様)
クラプトンが、クリーム結成より前に、ジョン・メイオールのバンドに参加して出した名作『ジョン・メイオール&ブルース・ブレイカーズ・ウィズ・エリック・クラプトン』というアルバムがある。これは、ギタリスト、エリック・クラプトンの最高傑作ではないか、とぼくは個人的にはおもっている。

ジョン・メイオールの胸を借り、ギター1本に集中し、壮絶なプレイを展開している若きエリック・クラプトンが聴けるアルバムだ。彼は、これほど火の出るようなプレイを、その後はしていないのではないのか。ギタリスト修行中だった20歳のエリック・クラプトンである。

この、クラプトンが天下にギタリストとしての名を馳せたアルバムから、ゲイリーは「オール・ユア・ラヴ」をカバーしている。もともとは、オーティス・ラッシュのブルース作品だが、ゲイリーが意識したのは、彼のヒーローであったエリック・クラプトンの熱いギター・プレイだっただろう、とおもう。今度改めて聴いて、ゲイリー・ムーアのひたむきなプレイも心地よかった。

これを契機に、これからも、時々は、しばらく聴いていない古い作品を、もう一度聴きなおしてみようと、おもいました。