かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

100年目の夏目漱石「坊ちゃん」

坊ちゃん (お風呂で読む文庫  1)
夏目漱石が「ホトトギス」という雑誌に「坊ちゃん」を発表して、今年で100年めだそうです。漱石は、すでに「ホトトギス」に「吾輩は猫である」を連載していて、これが掲載されるや、おもしろいので大評判になりましたが、「坊ちゃん」を発表し、その人気を決定的にしました。とにかく夏目漱石の小説はおもしろかったんですね。

漱石の「私の個人主義」という講演では、最初に、漱石が高い壇上に立つと、それだけで、聞き手の学生たちがくすくす笑っていたようで、「あなたがたは、そうして私を見て笑っておりますけど……」なんて、挨拶から話がはじまるくらいです(笑)。後年の漱石は、複雑な心理小説を書きますけど、デビュー時の人気は、圧倒的におもしろい作家だ、ということで評判であったわけです。

「坊ちゃん」は、ぼくにとっても漱石入門の小説で、こんなたのしい小説があるのか、とおもい、それからますます漱石に惹かれてしまいました。漱石の残した作品も、漱石という人間も、ぼくは大好きですが、漱石の小説がなぜ好きか、と聞かれましたら、とにかく作品がおもしろいから、とぼくは答えます。

「正直が一番大事!」というそれだけのメッセージをおもしろおかしく書いたのが小説「坊ちゃん」です(笑)。とってもわかりやすい小説です。「おいおい、それだけかよ」という反論がすぐに聞こえてきそうですけど、はい、それだけです(笑)。それだけでもいいじゃありませんか。あまり考えたらこういう小説はつまらなくなります。

少年時代からまっすぐな気性で育ち、教師になってからは、学生や同僚の二枚舌に腹を立てて、ついに制裁・鉄拳をくわえて、いさぎよく辞職する。そういう単純なストーリーですね、「坊ちゃん」は。

もう1つの特徴は、言文一致の文体です。主人公の<坊ちゃん>は、江戸っ子のべらんめえ口調で、自分の生い立ち、松山へ赴任しての失敗談を語りおろします。その語り口のスパッスパッとした小気味よさが、小説「坊ちゃん」の魅力の80%を占めているのではないでしょうか。

作中、<坊ちゃん>を両親が愛さないのは、少年時代、養子に出された漱石自身の寂しい生い立ちを思い出させます。しかし、坊ちゃんには、彼をいつもやさしく見守ってくれているお守りの「清」がいました。「清」というおばあちゃんの「無償の愛」が、小説「坊ちゃん」に、優しい潤いをそえていますね。

「坊ちゃん」再読、おもしろかったです。