かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

里見とんの小説「彼岸花」の「あとがき」

jinkan_mizuhoさんが4月11日の日記に、ringoさんが4月20日に「彼岸花」について触れられております。jinkan_mizuhoさんは、映画と小説とを比べられた印象で、ringoさんは、小津映画「彼岸花」を見終えたばかりの感想です。

ぼくも、久々に里見とんの原作を読み直しました。そして、大体jinkan_mizuhoさんと同じように、これは小津映画の方に軍配をあげたいな、とおもいました。

あらすじは、会社重役さんたちの、娘の結婚話のあれこれで、なんてこともないお話です。それでも、映画はringoさんが詳しく触れているような付加価値を作品に加えて、楽しい娯楽ドラマになっているとおもいました。しかし、戦後の上流家庭の結婚問題に興味のないぼくには、映画も小説も、それ以上ではないような気も……。

わたしの読んだ本に、里見とんの「彼岸花」のあとがきが出ていましたので、一部を引用しておきます。

(前略)ところが、それこそ「不思議な御縁」とでも言おうか、今年の正月、小津君から、私の原作を映画にしたい、との申し出があり、それならば旧作のあれこれを詮議するより、いっそ映画化されることを意識して、新たに一作を書きおろそうではないか、との相談が一決し、早速、小津、野田両君と三人で湯ケ原に滞在し、どうやらおほあらましの筋が立って(以下略)。

もっとも、両君は両君で、初めからシナリオを作る気だし、私は私で、ほぼ似たような筋の小説を書けばいいので、正確な意味での合作とは言えないが。


というような具合で、さらには2年後の昭和35年同じ方法で「秋日和」も制作されました。どちらも、里見とんの小説としては、上・中・下と分ければ、「中」くらいではないか、とおもいます。

ただ、同じ単行本に収録されているなかで、同じく妙齢の女性が見合いを繰り返していく話で、「縁談窶」(「えんだんやつれ」と読む)という短編があって、これには読みながら、うなってしまいました。「小父さん」と「娘」との会話を通して、結婚前の清潔感あふれる女性の魅力を、里見とん一流の会話のうまさ、描写の絶妙さで、描き切って、これでこそ、里見とんの本領発揮とおもった次第でございます。ここに登場する「女性」は、おそらく小津映画に登場する若い女性の魅力を上回っていると、とぼくは感じました。

「縁談窶」(えんだんやつれ)については、また改めて別に感想を書ければ書きたい、そうおもっておりますが……。

秋日和/彼岸花

秋日和/彼岸花