かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

落語を読んでみる


古今亭志ん生の奔放な人生を楽しむ

古今亭志ん生 (KAWADE夢ムック)
5代目古今亭志ん生を特集した「KAWADE夢ムック 古今亭志ん生」を読む。志ん生の落語は、図書館にCDがまとめてあったので、それを片っ端から借りて聴いていたが、彼の人生的なものは、以前小島貞二著「志ん生の忘れもの」を読んだだけで、ほとんど知らなかった。それが、このムックでいろいろなことがわかっておもしろかった。

内容は、古今亭志ん生本人の対談(相手は、女優の清川虹子)から、志ん生の長男で弟子でもある金原亭馬生、末っ子古今亭志ん朝の証言。また良きライバルでもあった三遊亭円生の回想など、いまではまとめて読むのも大変な、当時の雑誌に掲載された記事が集められていて、これがおもしろかった。志ん生ファン、落語ファンは、とりあえず立ち読みしてみてください。ぼくが知らないせいもありますが、1冊に情報量満載です。

このムックに刺激されて読んでみたのが、美濃部美津子著「三人噺 志ん生・馬生・志ん朝」(文春文庫)。美濃部美津子は、志ん生の長女であり、馬生・志ん朝の姉にあたる。志ん生が長い間売れなかったため、苦労のどん底を子供の立場から経験している。

三人噺 志ん生・馬生・志ん朝 (文春文庫)
家に金がなくても、家庭を顧みず、借金をこしらえ、飄々と遊び歩く志ん生の破格な人生は、社会常識からは話にならないが、噺家としてはみごとに肥やしとなっていくようだから、わたしたちの道徳を超えている。笹塚の借家の支払いをためて、業平橋にタダの部屋があるというので、リヤカーで夜逃げするエピソードは、それじたい落語のようだ(笑)。

業平橋の借家がタダなのは、ちゃんと理由がある。埋め立てて長屋をこしらえたものの、じめじめと湿気がはげしく、借りる住民がいなくなってしまったので、「ちゃんと人間も住めますよ」という見本として、志ん生一家がタダで住むことになったというのだ(笑)。しかし、「なめくじ長屋」と呼ばれるように、巨大ななめくじや、しゃべっていると口に飛び込んでくるほど大量な蚊が発生し、それはそれで大変な生活であったらしいが、これもそのまま落語の世界をみるような…。

これからも、志ん生関連の本は読んでいきたい。



■「笑わせて笑わせて 桂枝雀

枝雀落語大全(1)
図書館に「桂枝雀落語大全40巻」があったので、去年から、2週間に1度の割で4巻ずつ借りて、もう少しで「英語落語」の巻をのぞいて聴き終わる。桂枝雀をまったく知らなかったが、思いっきりおもしろいので、聴いていると、そばに人がいてもつい吹き出してしまう。古典落語の同じ出し物を話しても、笑いの壺が枝雀独特のものに味付けされているのがぼくにもわかる。

で、読んでみたのが上田文世著「笑わせて笑わせて 桂枝雀」。鋭利で繊細な感覚をもった桂枝雀は、以前の名、桂小米時代は話が暗かったという。「落語とはなにか、笑いとはなにか」と理詰めに問い詰めてしまう律儀な性格が伝わってきて、笑いたくても笑えなかったそうだが、そういう小米時代が好きだ、というひともいるようだ。とにかく、そのどこか暗かった桂小米が、桂枝雀を襲名するとともに、爆笑王に化けた。「もっともっと面白く」を理詰めに追及して、桂枝雀はその極意を得ることができたのか。

笑わせて笑わせて桂枝雀
CDで聴く桂枝雀の落語は、早口で明晰で、そして畳み込むように笑うポイントがやってくる。強引なくらいおもしろい。

桂枝雀は、枝雀を襲名してから、2度強度な鬱病に襲われる。1度目は、なんとか乗りこえたが、2度目には自らの手で、命を絶ってしまった。