■デヴィッド・クローネンバーグ監督「ヒストリー・オブ・バイオレンス」
- 2005年 アメリカ映画
- 主演:ヴィゴ・モーテンセン、マリア・ベロ、エド・ハリス
アメリカ中西部の田舎町でダイナーを営むトムは、ある夜押し入った2人組の強盗を逆襲し、客や友人を救い町のヒーローとなり……その日からトムの家族に執拗につきまとう男たちが……。幸福と暴力の対立と、究極の愛の選択を描くクローネンバーグ監督のサスペンス!
「ギンレイ通信vol.90」より
押し入った2人組強盗を退治したまではよかったが、テレビなどにヒーロー談としてとりあげられたため、主人公の秘められた過去が露出していく。この男(ヴィゴ・モーテンセン)の過去には一体何があったのか、なかったのか?……という興味で映画の筋にひかれていきます。
過去が次第にわれてくると、あとはバイオレンス映画らしいアクションが展開されて、ぼくの好みではなくなります。ただ、今は善良な市民として家庭を愛する過去のある男を、その過去がわかったとき、現在の家族が受け入れるのか拒否するのか、そこが最終的な焦点となってきます。ぼくとしては、可もなく不可もない作品でしたが、主演の、善良だが不気味な表情をもつヴィゴ・モーテンセンが、腹の底が読みにくく、観客の興味をひっぱっていると思いました。
■ヴィム・ヴェンダース監督「アメリカ、家族のいる風景」
全てがイヤになり、撮影現場から逃亡した西部劇スターのハワードは、再会した母から20数年前に生まれた息子の存在を知らされる……。「パリ、テキサス」の脚本・監督のコンビが20年ぶりに描く人生と家族の意味!!
「ギンレイ通信vol.90」より
ぼくはこの監督のおもしろさがわかりません。画面にいろいろ技法をこらしているようですが、それがちっともおもしろく響いてきません。主演のサム・シェパードも、西部劇スターというより、カウボーイの扮装をした冴えないオッサンとしかぼくには見えません。このスター男が自分の実の父とわかったときに、息子が逆上して2階から家具を全部外へ放り出しますが、この辺から見ているのが苦痛になりました。登場人物の誰にも感情移入できないのです。
見ようによれば、むかし見た小津安二郎監督の「浮草物語」のようにもスジだけは思えるのですが、こちらには、小津作品のような格調も繊細さも感じられません。
我慢ならないので、途中で帰ろうとすると、祭日で映画館は満員。座席の並んだ中央にすわってしまったので、左右どちらも4〜5人のひとに脚やカバンをひいてもらわないと外へ出られない。そんなことをして途中で出ていけば、見ている人にいやな思いをさせるのは明らか。なんとか、寝てしまって映画の終わりを待とうと眼を瞑ってみますが、こんなときは眠れません。となると、狭い座席のスペースにからだをのばすことができずにいるのが、窮屈でならなくなってきます。仕方ないからもう一度映画に意識を向けますが、どうも、知っている人の出ない「学芸会」を見ているようです。
こうなってくると、満員の映画館というのは、拷問ですね。あれは映画がおもしろいから、そんなことを忘れていられるのですが、それが死ぬほどつまらないとなると……。
しばらくすると、1つ置いて右に座っている女性が立ち上がりました。このチャンスを逃したら、二度と来ない。「どうもすみません」といって、からだをこごめ、急いで席を立ちました。