ringoさんからお借りして、これまでCDだけで聴いていたリンゴ・スター&ヒズ・オール・スター・バンドの12年間にわたるベスト・ライヴを、映像で見せていただきました。ロック50年の歴史が、その渦中にあったバンドの中心メンバーによって、このように再現されるなんて、ふしぎな光景です。つまり、ビートルズとイーグルスとザ・バンドとEストリート・バンドが一緒にいたり……ビートルズとクリームとフリーが合同演奏していることを想像してみてください、これはとってもすごいことだとおもいませんか。
このベスト・ライヴのハイライトは、ジャック・ブルース(ベース)、ピーター・フランプトン(ギター)、サイモン・カーク(ドラムス)が演奏するクリームかもしれませんね。ここでは、リンゴはあくまで脇役に回ってドラムをサポートしております。
彼らが全力で演奏する「サンシャイン・ラヴ」がすばらしい。特に、ピーター・フランプトンのギターとジャック・ブルースのベースの共演は、オール・スター・バンドならではのものだとおもいました。
それとあとに続く、サイモン・カークがドラムを叩きながら歌う「オール・ライト・ナウ」が圧巻! ポール・ロジャースに負けない熱唱をサイモン・カークが聴かせてくれます。ドラムを叩きながら歌うシーンのないリンゴより、正直いってぼくはサイモン・カークの歌いながら叩く姿に感動してしまいました。
となると主役のリンゴ・スターはなんなの?……といいたくなります。しかししかし、このバンドはやはりリンゴ・スターという座長がいなければ成立しないバンドなのです。
こんなバラバラで、いいとこどりの「オール・スター・バンド」を、リンゴ以外の誰が結成できますか。1回だけのチャリティーなら可能かもしれませんけどね。
ビートルズのリンゴ・スターが座長であり、その座長が決して「俺だ俺だ俺なのだ」の、自我ムンムンのひとでないことを、参加するメンバーが知っているからこそ実現できるロック・ショーなのです。
リンゴは、オール・スターバンドの参加へ、ポール・マッカートニーにも声をかけています(ポールは、自分のツアー活動が忙しいという理由で不参加)。これはどういうことか。もし、ポールが参加すれば、オールスター・バンドは、ポールが主役になってしまうかもしれません。そんなことはリンゴは十分承知です。そこがリンゴのすごさで、このバンドのおもしろいところです。
世界中のひとがポールがベースを弾きながら歌い、一緒にリンゴがドラムを叩く姿を見たいと思っている……リンゴは、もしそれが自分の力で実現できれば、よろこんでサイド・メンバーに回る人でしょう。リンゴ・スター&オール・スター・バンドは、そういうリンゴの「こころ」が根底にあって実現している、希少なバンドだとおもいます。
リンゴには、そのステージで展開される「夢の音楽」が本当の主役であって、自分ではないのですね。自分は、そのまとめ役なのです。だからこそ、出演者は、リンゴに遠慮することなく、ジャック・ブルースが、ピーター・フランプトンが、サイモン・カークが、なんの懸念もなく、もてる力を発揮して、すばらしいライヴを展開できるわけです。そして、リンゴが歌うときは、ロックの歴史を培ってきたメンバーたちが嬉々として、リンゴのサポートをつとめます。……そんなすばらしいコンサートを見ながら、ぼくはリンゴ・スター&ヒズ・オール・スター・バンドと、焼酎のロックに酔いしれました。