かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

スティーヴン・ウーリー監督『ブライアン・ジョーンズ ストーンズから消えた男』

気になってしかたがなかった映画を見てきました。おそらくローリング・ストーンズが描かれた、はじめての劇映画ではないでしょうか。まだ公開されたばかりなので、あまり多くの情報は慎みます。でも、ぼくの個人的な感想として聞いてください。


【写真1】:右は、本物のブライアン・ジョーンズ



ブライアン・ジョーンズという男

1969年7月3日、自宅プールでブライアン・ジョーンズ死亡。27歳でした。

ぼくがストーンズを聴きはじめたのは、1964年、ラジオから流れてきた「テル・ミー」でした。ビートルズとは違うダルい雰囲気に魅せられて、早速「テル・ミー」のシングルを買いにいきました。続いて買った「リトル・レッド・ルースター」、「タイム・イズ・オン・マイ・サイド」……どれも、当時リバプール・サウンドといわれたメロディアスなロック・バンドにはない魅力をストーンズはもっていました。これは、「サティスファクション」で彼らが大化けする以前のことですが……。

その「サティスファクション」で世界的に人気が爆発する以前、ローリング・ストーンズに、サウンド的にもバンド・イメージとしても、圧倒的な存在感で君臨していたのが、この映画の主人公ブライアン・ジョーンズであったわけです。

ストーンズ本を読むと、ブライアン・ジョーンズは、ストーンズの結成者であり、どんな楽器も30分ほどいじっていると使いこなしてしまう天才的プレイヤーであり、ストーンズの結成以前の話では、彼のスライド・ギターが、観客席にいたミックやキースをとりこにしてしまった、とも書かれています。つまり、ストーンズの中でも頭1つぬきんでていたミュージシャンでありました。

彼は、本格的なブルース信奉者であり、デビュー直後のローリング・ストーンズが、原曲に敬意を払った、素晴らしいブルースを演奏しているのを、ストーンズのファンは知っています。ブライアンは、過去に、これだけ素晴らしいブルースがある以上、自分たちがポップなオリジナル・ソングをつくることに、さほど関心がもてませんでした。そのことがやがて、ブライアンの悲劇に結びつきます。マネージャーの指針が、ビートルズに負けじと、レコードをオリジナル中心に切換えていくとき、ローリング・ストーンズの主力は、少しずつブライアンからミックとキースの手に移っていきました。ブライアンは、孤立していくのです。

一方音楽以外でのブライアンは、グループの中にあって尊大で、バンドのリーダーであることを誇り、ストーンズ4人がホテルの相部屋でも、自分だけは1室をとっていた、といわれています。4人が民主的にバンドの方針を決めていたビートルズとは随分違うグループでした。ブライアンとジョン・レノン、バンド・リーダーの性格の違いかもしれません。

また、奔放な性を楽しむブライアン・ジョーンズのホテルの1室には、これから合い方を勤める女性が列をなしていた、とか(笑)。話はいろいろオヒレがつきますから、どこまでが本当でどこからが伝説なのか、ぼくにはわからないのですが。ただ、彼はストーンズでデビューする以前からすでに私生児がいるような性的に早熟な青年であったことは事実のようです。もてる男の享楽を、ブライアンはめいっぱい楽しんでいました。



■映画『ブライアン・ジョーンズ ストーンズから消えた男


【写真2】:映画に登場したブライアン・ジョーンズ


以上のようなぼくの簡単な知識(専門的ストーンズ・ファンでなくても知っている程度)を、映画はそのまま踏襲しています。ぼくが、10冊程度のストーンズ本を読んで知っているブライアンのことを、この映画は1つも超えておりませんでした。

ブライアンの彼女、アニタ・バレンバーグ。彼女はブライアンの暴力に耐えられず、まもなくキース・リチャーズの恋人になりますが、そのことがブライアンを傷つけ、クスリやアルコールへの耽溺を促進した、というわれていますが、そのことも映画はとおりいっぺん程度には描いています。

バンドとしてぼくらが知っている有名な場面(例えばエド・サリバンショー出演のシーンとか)が再現される、ということはなく、要するにストーンズの映画であるようで、ストーンズの映画ではないのですね。あくまでブライアン・ジョーンズの映画なのです。それはそれでいいのですが、では、ぼくらはこの映画を見て、ブライアンについて、何か1つでも新しい人間像を発見することができたか。

それから、脇役としてのストーンズのその他のメンバーは、まるで個性が描かれていません。ローリング・ストーンズのメンバー、特にミックとキースには、似ているような似ていないようなそっくりさん(?)が登場しますが、チャーリーやビルは、楽器を持ってないと顔の判別もつきません(笑)。

ブライアン対ミック&キースの確執も、あっさりとだけ描かれています。それも、ミックやキースに個性がありませんから、映画を盛り上げるだけの効果は出ていないとおもいます。

映画の音楽は、全編にブルースが流れてそれはそれでいいのですが、ストーンズの音楽も、ストーンズを模した音楽も、最初の「リトル・レッド・ルースター」をのぞくと、あとは出てきません。ストーンズの音楽映画ではないのですね。

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比較的近年の作品、レイ・チャールズの伝記映画『レイ』でも、ジョニー・キャッシュを描いた『ウォーク・ザ・ライン〜君につづく道』でも、全編に彼らの音楽がそっくり再現されていて、音楽映画として楽しめましたが……。

実在のロック・バンドを描いた劇映画としては、ビートルズのデビュー以前を描いた『バック・ビート』、ジム・モリソンの心の軌跡を描いた『ザ・ドアーズ』、すぐにこの2本が浮かびます。

 
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『バック・ビート』は、主役のスチュアート・サトクリフ以外に、若きジョン・レノンがリアルに描かれていましたし、ハンブルグでのビートルズの演奏シーンがふんだんに再現されて、魅力的でした。『ザ・ドアーズ』は、バンドというより、ジム・モリソンの映画ですね。その他のメンバーの人間像がそれほど描かれていないのは『ストーンズから消えた男』に似ていますが、『ザ・ドアーズ』は、バンドのリハーサル・シーンや、再現された伝説のライヴ・シーンを楽しめました。

この2本は、ビートルズ・ファン、ドアーズ・ファンにはある程度、満足度の高い映画だったとおもいますが(それは言い出せば、いろいろ不満もあるでしょうけど<笑>)、『ストーンズから消えた男』は、ストーンズ・ファンにとって、そこまでの魅力があるかどうか……。

ストーンズ・ファンのみなさん、いかがでしたか。



●渋谷シネクイントにて

【注】:渋谷シネクイントは、月曜日から金曜日まで、初回12:00からの上映は1000円で見られます。平日行けるひとは参考にしてください。