ビートルズの最新ニュースを無料で配信している「ビートピア」などの編集者で知られる淡路和子さんが少年向けに書いたジョン・レノンの伝記。淡路さんは、河出の「文藝読本」の音楽分野なども担当されていて、そちらの文章も拝見しておりますが、理解の行き届いたとてもバランスのいい原稿をお書きなっています。
ので、どういう少年向け「ジョン・レノン」が登場してくるのかたのしみでしたが、やはり子ども向けという制約が大きいのか、淡路和子という著者の個性が感じられる部分はあまりありませんでした。
読みやすく、ジョン・レノンの生涯を展望しております。ビートルズのメンバーは名前が1、2度登場しますが、ほとんどジョン・レノンしか記憶に残らず、ビートルズは偉大なるジョン・レノンのバンドだった、という、後世の傾向に加担しそうな1冊です。もちろん、ジョン・レノンの伝記だから本の視点としては当然なのですが。
ジョンとヨーコが1960年代に行った「平和活動」は、ぼくは、もう少し実態を、詳細に分析していく必要があるのではないかとおもいます。ファンのぼくからは、ジョンの平和活動を批判的に見ることはむずかしいのですが、当時のぼくは、ファンとして見ても奇矯な行動に見えたのは事実でした。そして、その見方は実は今でも大幅には変わりません。「平和を我等に」や「イマジン」など、ジョンの才能が生んだ楽曲のすばらしさを別にして、彼らの一連の平和活動は意味があったのか。
本著では、1960年代世界中から誤解されたジョンとヨーコの平和活動が、後年になってやっと理解された、というように、彼らの行動は正しかった、ですまされていますが、ぼくはそのへんは保留したい気持ちがしました。
ぼくが、もし子どもにビートルズ関連のわかりやすい本を紹介するなら、ジョンのこの伝記ではなく、ビートルズのことをきちんと書いた本を、先に知ってほしいとおもいます。
例えば同じ「火の鳥文庫」にも、広田寛治著『ザ・ビートルズ ロックの革命児たち』があります。この本は、子ども向けにわかりやすく、ビートルズというバンドのすぐれた音楽性とその思想、彼らが世界の何を変えたのかなど、不世出のグループの魅力が描かれています。