かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

溝口健二監督の2本

■『新平家物語』(1955)[DVD]


溝口作品としては珍しいカラー作品。平安京が美しいセットで再現され、道を牛車がのしのしとあるいていく。まさに平安絵巻を見るような豪華さです。

平清盛市川雷蔵)の父忠盛(大矢市次郎)は、朝廷の命を受けて海賊征伐を果たしても、公家社会からろくな恩賞もなく、武士は、ただ公家社会を護る番犬にすぎないという屈辱を痛切に味わう。律儀ひとすじに生きる父を愛しながらも、若き清盛は、公家社会が支配する社会の矛盾に目覚めていく……そんなストーリーです。

平安時代を映す映像の美しさに比べて、登場する人物たちは、父忠盛、主人公の清盛、忠盛に嫁いできた元祇園白拍子泰子(木暮実千代)を含めて類型的。人物の造型にこれといった創造性はありません。

武士社会の台頭を予感させるストーリーですから刃をまじえる戦闘シーンの見せ場があってもいいのですが、ほとんど戦いらしい戦いはなく、そこは、かえって溝口健二らしさを感じたりしました。男と男の勇猛な戦闘になど、溝口健二はきっと創作意欲がわかないのでしょう(笑)。


■『歌麿をめぐる五人の女』(1946)[DVD]

歌麿をめぐる五人の女 [DVD]
歌麿をめぐる五人の女、というタイトルですが、歌麿がプレイボーイで五人の女性となにかしら愛憎関係になる、というストーリーではありません。歌麿の周辺にいるおいらんやお屋敷の女性たちが、恋にそれぞれ翻弄されるという話で、おいらんの姿などが浮世絵の世界そのままに登場してくるのがみどころ。

ただストーリーは焦点がはっきりせず、映画館ならまた違うのでしょうが、お酒を飲みながらのテレビ鑑賞ではもう1つ登場人物の心情にはいっていくことができませんでした。映像が古くて暗いのもテレビの小さな画面での鑑賞では苦戦しました。