■『新平家物語』(1955)[DVD]
溝口作品としては珍しいカラー作品。平安京が美しいセットで再現され、道を牛車がのしのしとあるいていく。まさに平安絵巻を見るような豪華さです。
平清盛(市川雷蔵)の父忠盛(大矢市次郎)は、朝廷の命を受けて海賊征伐を果たしても、公家社会からろくな恩賞もなく、武士は、ただ公家社会を護る番犬にすぎないという屈辱を痛切に味わう。律儀ひとすじに生きる父を愛しながらも、若き清盛は、公家社会が支配する社会の矛盾に目覚めていく……そんなストーリーです。
平安時代を映す映像の美しさに比べて、登場する人物たちは、父忠盛、主人公の清盛、忠盛に嫁いできた元祇園の白拍子泰子(木暮実千代)を含めて類型的。人物の造型にこれといった創造性はありません。
武士社会の台頭を予感させるストーリーですから刃をまじえる戦闘シーンの見せ場があってもいいのですが、ほとんど戦いらしい戦いはなく、そこは、かえって溝口健二らしさを感じたりしました。男と男の勇猛な戦闘になど、溝口健二はきっと創作意欲がわかないのでしょう(笑)。