かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

成瀬巳喜男監督『驟雨』

倦怠期を迎えた夫婦の話、というと『めし』を連想しますけど、まさに『めし』の夫婦が再登場したような映画のはじまりでした。

夫の役は『めし』上原謙から佐野周二に俳優がかわっていますけど、妻の役は同じ原節子。しかも、原節子の世帯やつれぐあいは、まさに『めし』のまんまです(笑)。

では『驟雨(しゅうう)』は『めし』の別ヴァージョンか?

というと、全然違いました。

『驟雨』はコメディ作品なんです。成瀬巳喜男の優れたユーモア感覚が、たっぷり楽しめます。しかも、ディテールの充実ぶりは、ほかのシリアスな成瀬作品とかわりません。ふざけすぎることがなくて、ただ、若い夫婦の会話のくいちがい、気持ちのすれちがいが、じんわりとしたユーモアを漂わせています。

作品にこめられた夫婦の問題は、どれもひとつ間違えば別居や離婚に発展する危機をはらんでいます。例えば夫のリストラ問題をとっても、1つの深刻な物語に発展する素材です。

それをユーモアでまぶす成瀬巳喜男の手腕。この人の人間観察の深さは、並大抵ではない、とまたまた感心してしまいました。

エンディングの絶妙な軽みは、名人芸です。ぼくは、あえてこの作品を成瀬巳喜男の代表作の1つにあげたいです。こんな深刻で可笑しな作品には、そうそう出会えません。


【注】:ringoさんの『驟雨』の感想は、こちら