かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

トラベリング・ウィルベリーズ『ヴォリューム1』が発売されたころ

トラヴェリング・ウィルベリーズ・コレクション

川越の家から「amazonから何か届いているよ」という連絡がある。ジョージだ、ディランだ……トラベリング・ウィルベリーズが家に届いたのだ。

もともとオリジナル音源があるので、この再発については、未発表の音源や映像がどんなものか確認してから、買うかどうするか決めようとおもっていたが、先日タイシホさんのブログを見て我慢できず、US盤をamazonに注文した。それが届いたのだ。

でも、「極貧荘」にいるので、すぐに見ることも聴くこともできない。なんだかもどかしい。川越へ帰るのは、日曜日。それまではおあずけ……。おやつを待つジュリアの心境だ(笑)。

ジョージとボブ・ディラン

ビートルズボブ・ディランが互いに意識し、影響を受けあっていたなんて、60年代には情報がなかった。だから、ジョージが主催した『バングラデシュのコンサート』で、ジョージ・ハリスンリンゴ・スターボブ・ディランが同じステージに立ったときは、本当に興奮した。見たのは1971年、有楽町のスバル座だ。

動くボブ・ディランをはじめて見た。1966年からファンになって、写真では見ても、映像はほとんどなかった。あっても日本の一般のファンには届かなかった。そういう時代だった、60年代というのは。動くボブ・ディランを見るまでに、5年かかったことになる。

ジーンズの上下、ハーモニカをキーごとにとりかえながら、無造作に歌うディランにしびれた。なんのきどりもない。ジョージは、ディランの1曲1曲に静かなリード・ギターをそえた。前に出過ぎない、曲への敬意が感じられるジョージのリード・ギターだった。タンバリンを担当したリンゴが、映像でほとんど映らないのが残念だったことを思い出す……。

そのジョージとボブ・ディランが、なんとバンドをつくった、というニュースに驚いたのが1988年。トラベリング・ウィルベリーズとい覆面バンドだという。どんなバンドか。覆面といっても、すでに情報で名前がわかっているのだから、本当の意味の覆面バンドではない。彼らの遊び感覚か、バラバラのレコード会社に所属するための対応策だろうとは、推測がつく。

■80年代後半のジョージ・ハリスン

ジョージ・ハリスンのファンにとって1987年と1988年は幸せな2年間だった。

1982年の『ゴーン・トロッポ』から沈黙していたジョージが、1987年待望の新作『クラウド・ナイン』を発表。はじめて聴いたとき、驚いた。こんなにポップに弾むようなジョージの声は、はじめてだった。5年間待ちつづけたかいがあったというものだ。とにかく1曲1曲がすばらしい! 久々に聴くジョージの声の優しい響きに酔った。そして、アルバム『クラウド・ナイン』は、大ヒットした。


まだ『クラウド・ナイン』の余韻が醒めないうちに、『トラベリング・ウィルベリーズ ヴォリューム1』は発売された。シングルは「ハンドル・ウィズ・ケア」。のびのびと晴れやかに歌うジョージの声は、『クラウド・ナイン』の延長だったが、アルバム全体はボブ・ディランロイ・オービソントム・ペティ、ジェフ・リンの個性が一体になって、『クラウンド・ナイン』とは別のたのしみがあった。どこまでも、コーラスになじまないディランのだみ声がまたおもしろい。

ジョージのシングルのB面「ハンドル・ウィズ・ケア」を演奏するために、なんとはなしにこの豪華なメンバーが集まったというのだからあきれる。曲の出来があまりいいので、これはシングルB面ではもったない、ということになり、とうとうこのメンバーでアルバムをつくってしまったというのだから、もっとあきれる(笑)。

1988年は、MTVが地上波のテレビで見られた時代。レコードが静かに表舞台を去り、はっきりとCDに役割をゆずったのもこのころだった。ジョージのアルバムを、レコードではなくCDではじめて買ったのが『クラウド・ナイン』で、その次がこの『トラベリング・ウィルベリーズ ヴォリューム1』ということになる。

あのころ1本のマイクを5人のメンバーが囲んで歌う「ハンドル・ウィズ・ケア」のプロモがテレビで繰り返し見られた。ジョージもロイ・オービソンも元気だった。

1990年、この覆面バンドは、その後『ヴォリューム3』を出したが、どういうものかジョージのヴォーカルはすくなく、ぼくは『ヴォリューム1』ほどたのしめなかった。


【注】:いうまでもないけれど、『ヴォリューム2』は、新メンバーのデル・シャノンが途中で亡くなってしまったため発売されなかった。


90年代も、ジョージ・ハリスンには追い風が吹いていたが、それを彼は利用しなかった。ジョージはツアーすることも、さらに新しいアルバムをつくることもなく、また音楽業界からゆっくり身をひいてしまう。

それからジョージの死まで、何度か新作のうわさがあったものの、結局発売されなかった。ファンがやっとジョージの新作『ブレインウォッシュド』を聴いたのは、亡くなった翌年の2002年。1987年の『クラウド・ナイン』から15年、トラベリング・ウィルベリーズ『ヴォリューム3』から数えても、12年も経ってしまった。

休火山のように時々音楽業界から身をひいてしまうジョージ・ハリスン。音楽業界が好きでないと明言するジョージが、久々ににぎやかに活躍したのが、この1980年代後半の数年だった。


今度の再発には、未発表映像もあるという。日曜日は、久々にジョージと仲間たちが活躍するトラベリング・ウィルベリーズを見ながら、おいしいお酒を飲もう!