かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

善き人のためのソナタ(2006年)

善き人のためのソナタ スタンダード・エディション [DVD]

1989年ベルリンの壁崩壊前、東ドイツ国家保安省局員ヴィースラーは、反体制の証拠をつかむため、劇作家の日常を監視するが、予期せぬことに盗聴器を通して知った自由、愛、文学、音楽に影響され、自ら壁の向うへ世界を開いてゆくサスペンスタッチのヒューマン・ドラマ!!


★(「ギンレイ通信」Vol.101より)


こういう作品を見ていると、全体主義国家の恐ろしさが強烈に伝わってきます。国家が強い権力をもち、個人が軽視されるようになったら、どのような事態になるか、これは20年ほど前の物語ですが、未来への警告として見ることもできるでしょう。


東ドイツ国家保安省局員ヴィースラー(ウルリッヒ・ミューエ)は、国家に従順な劇作家ドライマン(セバスチャン・コッホ)に疑いをもち、盗聴器をしかけます。はじめは、ドライマンと舞台女優クリスタ(マルティナ・ゲデック)の情事の様子などを盗聴していますが、まもなく、彼らの奥に隠した反体制の精神を知ります。


まさに予想が的中した……はずなのに、、、


ドライマンとクリスタの、文学や音楽への語らい、彼らの自由への強い想いを盗聴するうちに、監視するヴィースラーのこころが段々にかわっていきます。


終始硬い表情を変えないヴィースラーを演じるウルリッヒ・ミューエがいいですね。表情はかわらないのに、彼のこころのなかは、自分の身の安全を省みないほどに激変していくのですから。彼のこころに何が起こったのか。この俳優の能面のような表情は、最後までかわりませんが……。


劇作家を演じるのは、セバスチャン・コッホ。彼は服装の整然としている東ドイツのなかにありながら、ネクタイをしない。ネクタイを結べない。そこに、国策に協力する作家(といわれている)でありながらすでに反骨精神が見えています。


彼の東ドイツ批判の匿名原稿は、すべてヴィースラーに盗聴され、国家に筒抜けのはずなのですが……


厳しいストーリー展開のあとに、あたたかいラスト・シーンが待っています。硬質なサスペンス映画として楽しめました。


ギンレイホール(8月3日)