jinkan_mizuhoさんが、8月26日のブログに新藤兼人の「愛妻記」について書かれていますが、この本もまた「彼女へのレクイエム(鎮魂曲)」です。
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新藤兼人は、つくりたい映画をつくるために独立プロの「近代映画協会」を設立。しかし、新藤の先鋭的な映画は、しばしば興行的に失敗する。高利の借金をしながらの綱渡り経営は、腹をくくっての背水の陣。
しかし、強い味方が乙羽信子だった。
大映のスターとして期待されながら、大映の反対を押し切り、新藤兼人の<暗い映画>に志願して出演。しかも、大映が新藤を切ろうとすると、みずから望んで将来の見えない「近代映画協会」へ移籍する。彼女は、メジャーの映画会社から干される。思い込んだら、打算などすこしもない。
言い出したらそれを貫く、乙羽信子の爆走する精神にたじろぎながらも、新藤は彼女に惹かれていく。女優としての乙羽信子は、いつも真剣だった。
初期の近代映画協会は、人気女優・乙羽信子がいなければ、とても経営は維持できなかったろう。
また新藤兼人なしに、スター女優・乙羽信子は、演技派女優として開花したかどうか。二人は、恋人の関係でありながら、まさに互いを欠かすことのできない同志だった。
新藤兼人作品で、乙羽信子は、さまざまな役柄をつとめる。年齢を経てからの汚れ役もおおい。すべて体当たり、どんな苦難な役柄も状況も、彼女は受け入れた。監督と女優がこれほどお互いを必要とした例を、知らない。
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新藤兼人作品の、1作1作の背景を知るうえでも、興味深い本でした。そして彼の自伝でもあります。簡潔で意を尽くした新藤兼人の文章に惹かれながら、一気に読みました。