かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

川島雄三監督『しとやかな獣』(1962年)

しとやかな獣 [DVD]

日本映画史に残る名作を世に送り出した川島雄三監督のエロティック・サスペンス。名女優・若尾文子を迎えて、知的でエロティックな謎の女を演じる。戦後の悪党たちの風刺を描き出す作品。


★「goo映画」のDVD情報より


エロティック・サスペンスといっても、若尾文子の女優としてのこぼれるような美しさがエロティックに感じられるだけで、いわゆるエロティックなシーンがあるわけではありません。


この映画ものすごく可笑しいです。爆笑ものではなくて、くすぐるような可笑しさがいっぱいに仕掛けられています。シャレているなあ、しかし。こういう作品は大好きです。


描かれる舞台は、あやしい家族の住む五階建てのマンションだけ。この一室に、腹に一物ある人間がいろいろ出入りしてドラマが展開する。それが実に可笑しい。


なにしろ、登場人物は悪人ばかり(笑)。みんな何かを企んでいますが、それが飄々として憎めない。この悪人のぬけている善良さのさじ加減が実にうまいんですね。結局美しい女ひとりに惚れてしまって、悪人を徹底できない。


出入りする人間は悪者ばかりですが、そもそも、このマンションに住む一家そのものが詐欺師家族ですから、妙な具合で、くすくす笑い通しです。


一家の父を伊藤雄之助、母を山岡久乃が演じていますが、実に淡々としていて可笑しい。


思いがけない傑作に出会いました。