かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

年末・年始は名匠の作品を連続して見ました


なかなかブログにアップする時間がなかったので、4本まとめて、簡単ですが感想を記録しておきます。


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成瀬巳喜男監督『娘・妻・母』(1960年)


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東京の山の手に住む坂西家は、還暦を迎える母親・あき(三益愛子)をはじめとして、長男・勇一郎(森雅之)、その妻・和子(高峰秀子)出戻りの長女・早苗(原節子)など7人の大家族である。和子には町工場を経営する叔父・鉄本(加東大介)がおり、勇一郎は家族に内緒で家や土地を抵当に入れ、かなりの額を鉄本に融資していた。しかし、その工場の経営が傾きかけていることを、勇一郎は見逃していたのだった…。公開当時は原節子高峰秀子の18年振りの共演などが話題を呼び、興行的にも大成功を収めた。


(「CinemaScape−映画批評空間−」の解説から)


家族を描いた成瀬巳喜男の秀作の1つだとおもいます。子供たちは、母を思いつつも、新しい自分の生活の方が大変で、財産相続の話となると、ついつい欲望の本音がちらつきます。


善人でありながら、エゴイストでもある子供たちは、小津安二郎の『東京物語』や成瀬巳喜男自身の『女の座』とも、共通していますが、正確に人間の心情を見極めた成瀬巳喜男の視点が鋭くて、見ごたえのある作品になっております。


原節子高峰秀子の共演が話題になったようですけど、それ以外にも上記の出演者リストをご覧ください。まさにスターせいぞろいの作品です。


しかし、こういう映画でも、成瀬巳喜男の視点は、スターたちに乱されることなく、きっちりその役に配置し、子供たちのエゴイズムを冷静に描ききっています。


出戻りの娘を演じる原節子の着物姿がよくにあっていました。





成瀬巳喜男監督『女優と詩人』(1935年)

二ツ木月風(宇留木浩)は詩人である。とは言っても売れない詩人であり、舞台女優の妻・千絵子(千葉早智子)のほうがずっと稼ぎがいい。おかげで家の中では妻の尻に敷かれっぱなしの月風である。今日も今日とて妻の使いで買い物に出た月風だが、思いがけずも友人の熊勢梅童(藤原釜足)と鉢合わせ。しかしこの梅童なる自称小説家、部屋代を滞らせてにっちもさっちも行かぬところへ月風が現れたものだから、あることを図々しくも思い付いて…。


(「CinemaSpace-映画批評空間-」の解説から)


女優で売れている妻と、売れない詩人の夫が暮らしています。生活の主権は、もちろん妻にあって、いつも肩身の狭い夫ですが、、、


ある日ふたりは激しい喧嘩をしますが、終わってみれば、妻は従順になって、睦まじい夫婦仲に……というわけで、万事めでたしのお話(笑)。


成瀬巳喜男監督にはめずらしい喜劇です。古い作品ですが、このころはこういう庶民喜劇の寸劇みたいなものがおおく作られていたのでしょうか。


とりたてて成瀬巳喜男作品らしい特徴はありませんが、日常を軽妙に切り取っていて、たのしい映画でした。


最初の成瀬巳喜男の奥さんだった千葉早智子が、初々しい妻役を演じています。


隣人役で登場する三遊亭金馬の元気な姿が、落語ファンにはうれしいし、作家役で登場する藤原釜足がすごく若い!(笑)





溝口健二監督『山椒大夫』(1954年)



森鴎外の原作(大正五年一月“中央公論"発表)を「唐人お吉」の依田義賢、「鯉名の銀平(1954)」の八尋不二が再解釈を加えて脚色、「祇園囃子」溝口健二が監督にあたった。撮影宮川一夫、音楽早坂文雄と溝口作品のレギュラー・スタッフの他、建築考証に日本古建築専攻の藤原義一、衣裳考証に「西鶴一代女」その他に協力した上野芳生が加わっている。


(「goo映画」の解説より)


森鴎外の原作は教科書などでも紹介されているので、この人買いのストーリーはほとんどのみなさんがご存知だとおもいます。


農民の不幸を救おうとした武士の父は、筑紫に島流しにされ、母と子供(厨子王と安寿)は、それぞれ人買いに渡され、母は遊女として佐渡へ売られ、厨子王と安寿は、丹後の山椒大夫に買われて、人間を人間として扱わない過酷な重労働を課せられます。


美しい白黒の映像は、溝口健二と撮影の宮川一夫によるものだとおもいます。映画は、厨子王と安寿に襲いかかる不幸を、執拗に描いていきます。


父は、容疑が晴れないまま筑紫で憤死。安寿は、厨子王を逃亡させるために入水自殺。残った厨子王はやがて、いざりで盲目、と変わり果てた母と再会しますけれども、とてもめでたしめでたし、という気分になれないまま終わります。


森鴎外が感情を排して描いた悲劇を、溝口健二は、強い情感で映画化しています。胸がつまるような悲しい映画でした。


香川京子の可憐な美しさが、悲しみを誘います。




溝口健二監督『楊貴妃』(1955年)


大映と香港のショウ・ブラザース社との合作による大映カラー総天然色映画で、永田雅一、ランラン・ショウが製作に当る。白楽天の『長恨歌』にもとずいて香港の脚本家陶秦が書いたものを「七つの顔の銀次」の川口松太郎、「舞妓三銃士」の依田義賢、「明治一代女」の成澤昌茂が共同で書き直し、「近松物語」の溝口健二が監督に当り、撮影には「千姫(1954)」の杉山公平が当る。中国の時代考証家廬世候が美術の水谷浩と協力している。


(「goo映画」の解説より)


出演は、楊貴妃京マチ子玄宗皇帝に森雅之


玄宗皇帝は、楊貴妃を深く愛し、楊一族を重用する。しかし、楊一族の奢りと権力の私物化が、次第に民の反感を買い、反乱軍に追いつめられて楊貴妃は自殺、やがて玄宗皇帝も、その地位をおわれていく、そんな権勢の無常感を描いています。


大作だけに、中国の王室を描いた映像は豪華絢爛をきわめていますが、溝口健二に中国の皇帝に特別な関心があるともおもえず、楊貴妃玄宗皇帝も、類型的な人物描写で終わっています。


【了】