■スサンネ・ビア監督『ある愛の風景』(2004年)
軍人である夫の戦死を告げられた妻、その喪失感を慰めたのは夫の弟。だが夫は捕虜となって生き延び、別人のようになって戻ってきた……。ハリウッドに招かれての作品も完成したスサンネ・ビアが、女性監督らしい繊細な映像美で描いた過酷な運命を語る愛のドラマ!!
★(「ギンレイホール」のサイト解説から)
こんなすばらしい映画に出会うと、ふだん「傑作だ!」なんて言葉を安っぽく濫用してはいけないな、と自戒します。なんども、そして終わってからも、強い感動におそわれました。
軍人の夫が、アフガニスタンに派兵され、乗っていたヘリコプターが、アルカイダに撃墜される。家族のもとへ訃報が届く。……悲しみにくれる彼の妻と両親。
悲痛な妻を慰めてくれたのは、周囲から、ろくでなしともてあまされていた夫の弟だった。悲しみから次第に兄嫁と弟に<共感>が芽生えていく。
しかし、夫の死は誤報。彼は、アルカイダの捕虜となって、生きていた。救出されて、夫は帰国する……
となると、ひとりの女性と兄弟の三角関係を描いた、あのエルビス主演の『ラブ・ミー・テンダー』の現代版なのか。ぼくの想像力は貧弱でした。
これはそんな生やさしい作品ではないんです。じつにすざまじく、怖い映画です。とはいえ、もちろんホラーではありません(笑)。
帰国した夫は、人間がすっかり変わっていました。アルカイダの捕虜になった夫は、どんな過酷な体験をしたのか? 彼は誰にも、妻にも、それを語ることができない。
怖い映画といいましたが、監督のまなざしはやさしく、登場する人物のひとりひとりが、おもいやりと愛情に満ちているんです。ですから、つらくてもこの映画が描くのは<愛の風景>なんですね。
あとは、実際に見てほしいので、内容はひかえます。
監督は女性。なっとくがいきます。ひとつひとつの描写に、繊細さがひかっています。最後まで、すべてみごとで、○○映画祭のように立ち上がって拍手をしたくなりました。
気がかりなのは、この作品のハリウッドでのリメイクが進んでいるとのこと。これだけの傑作をなんのためにリメイクする必要があるのか全然わかりません。