かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

『聞書アラカン一代』〜鞍馬天狗の正体は?


映画とともに、チャンバラとともに、自分流に生きた嵐寛寿郎こと、アラカンとはどんな人物だったのか。


戦時中は、軍部の意向で、国策からはずれた娯楽時代劇が撮れなくなり、戦後はGHQによって、チャンバラが禁止されます。アラカンは、寛プロの従業員をかかえて途方にくれ、旅芸人のように、ドサ廻りをやって、従業員の生活を支えたといいます。


ラカンの第一の側近だった青山正雄(嵐寿之助)の話。

青山:敗戦後ワテらは、みんな大将に食わせてもろうた。そばにおってボクが一番よく知っていることですが、ほんまに身の皮はいで養うたんです寛プロを。
 昭和二十四、五年でんな、時代劇がようやく撮れるようになると、各社からひっぱりダコですわ。これも内証やったけど大映永田雅一はん、ニ百七十万円ギャラを出した。六本契約一千六百万円、いまの金ならむろん億です。ためるつもりやったらビルの五つや六つ建ってまっせ、これもみなバラ撒いてしもうたんですねん。


竹中(労):結婚狂騒曲で……


青山:それだけやない、女につぎこんだと大将とぼけてはりますけど綜芸プロなんです、赤字のモトをはっきりいうたら。あっというまに大世帯ですわ、大将の口癖やないけど<ほてからにほてからに>、火の車がついてまわりよる(笑)。ゼニ勘定のわからん人やさかい、むしり放題にむしられた。
 もっともご本人は承知しとった、とボクは思うんです。盗人(ぬすっと)に入られても、警察に届けたらあかんで、折角ゼニつかんでよろこんどるのに、気の毒やさかいという人ですからね(笑)。


(略)


青山:アラカンかせいだだけ女に使うてしもうたと、弟子としてはそういわれると気に障るんですわ。うちの大将ゼイタクが大嫌いなんです。ムダ使いしまへんで、第一衣裳道楽に縁がない。和服かてニ、三着より持ってない、それもファンからもろうたやつです。背広も靴もあつらえない、ライター持たない、タバコはマッチでつけるものやときめてますのや。(略)
 ……ハンチングかぶって、どこへでもスタコラ歩いていかはる。食うものいうたら、これもトンカツが関の山です。それでパチンコさえはじいてたら、ご機嫌うるわしい(笑)。


竹中:ケチ、というんじゃないですね。


青山:そうです。他人のためには金を惜しまん、おのれは最低必要なものがあればよいという精神、これは昔からなんですわ。こういうたら笑われるかも知らんが、嵐寛寿郎は神様とちがいますか?


竹中:笑いません、その通りです。 


思わず、この対談を読んでいて、目が熱くなりました。


スターのよいところも、いやなところも見ているはずの側近に、ここまで敬愛されるアラカンは、少年の日、ぼくが大好きだった鞍馬天狗そのものだと、おもいました。


【了】