ringoさんからお借りした『浮き雲』と同じDVDに収録されていました。やっぱりこの監督おもしろいです。そして、ここでもフィンランドの生活の貧しさがかなり強烈に描かれていますけれども、ジメジメしていません。むしろおもしろいのです。
はじめて見た『浮き雲』で、ぼくはこの監督はリアリズムかメルヘンか、どちらを志向しているのだろうか、迷いましたが、この2作目を見た限りでは、メルヘン作家なのではないか、とおもっています。鋭いひとは、容易にそのことに気づいているのかもしれませんが、ぼくは2作見て、やっとそうおもいました。
暴漢に襲われて、過去を失った男が主人公ですが、この男は暴漢に殴られて記憶を失っても、さほどうろたえるわけではなくて、その状況を受けいれながら、新しい生活になじんでいきます。
浮浪者のような生活をしているかとおもうと、ロック・コンサートを企画したり、新しい恋人を獲得したり、<過去のない男>の新しい生活は、貧しくても、悪いことばかりではありません。むしろ充実しています。
やがて過去が判明して、男は妻と再会しますが、妻には愛する男性がいて、妻にも新しい生活がはじまっていました。<過去のない男>は、妻との離婚を承諾して、新しい生活で獲た恋人のもとへ駆けつけます。
どうというストーリーではないのに、男のいつも同一の表情が可笑しい。恋人役のカティ・オウティネンというちっとも美しくない女優が(『浮き雲』では、妻の役をしていました)、これまた、ほとんど表情が変わらない(笑)。
この能面カップルの恋愛が中心におかれて、なにか妙に厳しくあたたかい作品でした(笑)