西川美和監督の、『ゆれる』の前作です。先にtougyouさんがブログで紹介されているのを見て(こちら)、さっそくレンタルしてみました。
この組み合わせ、となれば、つまらないわけがないですね。実際に、裏切られませんでした。
★★★
話は、学校の教員をやっているしっかり者の妹(つみきみほ)と、口八丁手八丁で、詐欺師のようなことをやりながら暮らしている兄貴(宮迫博之)との、心の波紋を描いたもの。
不信が拭えない、妹の兄へのねじれた想い、その<ねじれ>を描くのが西川美和監督の真骨頂のようです。これは、『ゆれる』で、複雑な兄弟の心に焦点をあてたのと、同じです。
誠実で家族のことを真剣に考える妹が、そのマジメさゆえに、家族にうとんじられ、無責任だが、心を構えず呑気に話のできる兄貴が、家族に癒しを与える、などという屈折した視点が、西川監督のおもしろさですね。ぼくは、こういう錯綜とした視点をとらえることのできる監督が好きです。
仲のよさそうに見える家族が、一皮剥くと、必ずしも、緊密に結びついているわけでもない、というテーマは、よくあるもので、以前見た角田光代原作、豊田利晃監督『空中庭園』(2005年)もそういう映画でした。この映画は、しかし、いかにもつくりこまれたもの、という印象が残りました。
是枝裕和監督の最新作『歩いても 歩いても』も、家族の団欒の奥にある歪みのようなものを描いていました。この作品は、精密な描写で家族の抱える問題が鋭く描きこまれています。
西川美和監督の『蛇イチゴ』も、<家族>というテーマに独特な観察が働いています。登場する祖父・父・母・兄・妹……それぞれが描きこまれていて、人物が生きています。テーマが観念倒れしていません。
家族や兄弟のきしみを精密に描いた名匠としては、ぼくはすぐに成瀬巳喜男を思い浮かべてしまいます。
是枝裕和監督と、この西川美和監督……本人たちの意思は無視して、ぼくのなかでは、成瀬巳喜男の後継者ではないか、という気がしています。