是枝裕和監督『花よりもなほ』（2006年）

以前ロード・ショーで見ているので、再見です。ringoさんがブログで「おもしろかった」と書かれているのを見て、どうしても、もう一度見たくなりました。

むかしこちらで細かな感想を書いているので、詳細は省略します。

★

時代劇の約束が、みんな逆へ逆へ、気持ちよく裏切られていくことの新鮮な快感は、やっぱり是枝裕和監督、さすが（笑）。

時代劇なのに、力んだ描写は一切なし。それをパロディとしているのが、香川照之演じるハラキリに失敗ばかりしている武士と、赤穂浪士の討ち入り。老人の寝込みを襲い、よってたかって切りつけるとは、なんと無粋な（笑）、とこの映画では、赤穂浪士をちっともヒーローとして描かない。

長屋の住民のひとりひとりが、見ていて楽しくてしかたがありませぬ。みんな生き生きしています。木村祐一の＜よたろう＞は、何度見ても可笑しくて、彼が井戸のなかに突き落とされながら発するひとこと「おもしれえ」のシーンは、何度見ても吹き出してしまいます。

汚い長屋のなかで、掃き溜めの鶴のように美しい宮沢りえ。想う男が長屋にいながら好きでもない大家へ嫁つぐ、くずれた風情がなんとも色っぽい夏川結衣。男勝りでありながら、ひそかにひとりの男に恋をしている娘、田畑智子の可愛らしさ。この田畑智子もひそかな名演です。

かくして、こんなユニークな時代劇が誕生したわけですね。これほど痛快にヒロイズムを否定した時代劇を知りません。