かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

塚本晋也監督『ヴィタール』(2004年)


ヴィタール スタンダード・エディション [DVD]

交通事故ですべての記憶をなくした医学生が解剖実習にのめり込み、現実と記憶、肉体と魂の狭間を彷徨う映像叙事詩。監督・脚本・プロデューサー・撮影監督・美術・編集は「六月の蛇」の塚本晋也。音楽は塚本作品のほとんど(『ヒルコ/妖怪ハンター』をのぞく)に参加している石川忠。


(「goo映画」より)


「ヴィタール」とはどういう意味なのか、とおもってネットの辞書を検索してみたが、ヒット数0件。わかる方は、教えてください。



塚本晋也監督の作品は、映像に強い磁力がある。この映画も、素晴らしい映像が連続していく。雨のシーンが多く、しばしば壁に映る雨だれのゆれるシルエットが人物の心象の不安を表現する。


降りしきる雨と冷たく殺風景な解剖室の<この世界>があり、もう一方に、陽光が注ぐ海辺の光景に、死んだ恋人のいる<魂の世界>がある。主人公は、肉体の世界と魂の世界を彷徨する。


塚本晋也浅野忠信


主人公の高木をほとんどセリフなく、浅野忠信が演じる。顔の表情もほとんど動かない。だからこそ、微妙な(見るひとによって解釈自由な)心の揺れ動きが、静かに伝わってくる。


そして、その心の空洞へ、塚本晋也の映像が自由な色彩を塗っていく。


映像で詩を描ける監督と、表情を変えずに微細な心の動きを演じられる名優の共演は、見応えがありました。