かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

本多秋五著『志賀直哉上下』(岩波新書)について、もう少し。


この本、以前読んだときより、今回冷静によくわかり、おもしろかった。こちら側が、前(40代だったか?)よりも、年齢を経たからかもしれない。


志賀直哉』の下巻では、「和解」の詳細の読み解きがおこなわれ、こちらの理解も深められる。本多秋五のこの本は、「読解の友」としても有益な本だとおもった。わたし自身「和解」を何度となく読んでいるのに、本多の指摘には、新たに気づかされることが少なくない。


下巻では大量の頁を割いて、「暗夜行路」の詳細な解説と分析がおこなわれている。これがすばらしい。


1つの作品をここまで読みこめば、志賀直哉の「評論家無用論」は説得力を失うだろう、とおもう。


志賀直哉の唯一の長編「暗夜行路」は優れた細部の描写が随所でひかるが、全体の構成や設定には「あれ?」というような首をかしげる箇所が多い。


<自分はディテールはわかるが、ホールはわからない>


と、若き日に日記に書いた直哉だが、「暗夜行路」は、直哉には苦手な長編で、しかも完成までに長い期間がかかったため、作者本人が作品全体の設定を把握しきれず、事実関係に矛盾を起こしている箇所すらある。


武者小路実篤に「なぜ『暗夜行路』を完成させない」と聞かれて、「前のところを読み返さなければならないから」といい、「読み返せばいいだろう」といわれた、というが、志賀直哉とは破格にめんどくさがりな作家であり、後編を完成させるために、少なからず読み返したにはちがいないが、事実の細かな整合性までは注意がいき届かなかったのかもしれない。


職業作家としては信じられない話だが、それが志賀直哉だ(笑)。


そのへんを本多秋五が詳細に調べて実証しているので、スリリングで、興味深い。備忘録として、ここへ詳しくメモしておきたいが、もう少し時間のあるときでないと、ちょっとムリのようだ。


とにかく、本多秋五の『志賀直哉』で、最近の読書ではもっとも充実した時間を過ごすことができたことのみ、記しておこう。