昭和19年の作品。登場人物のセリフには、戦時下らしい勇ましい言葉が出てくるが、映画全体はのんびりしていて、「戦意高揚」の色合いは少ない。
映画のあらすじは、出兵している友人(江川宇礼雄 )に代わって、婚約の話を進めるため、相手の女性の家を訪問した主人公(河野秋武)が、その婚約者の妹(高峰秀子)に恋をしてしまう、という牧歌的な作品。
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原作は、太宰治の「佳日」という短編。読んだ記憶がないので、太宰治がこんな国策映画になるような原作を書いていたのだろうか、とおもって、ネットの青空文庫を検索して読んでみた。
太宰の原作は、映画よりもさらに国策映画の色合いは少ない、というより、ほとんどない、といっていい。
よくぞ、こんな呑気な小説を戦争の真っ只中に書いたものだ、と感心してしまうくらいだが、検閲に対する気配りをしていのはわかる。
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豪華女優の共演である。
映画は、谷崎の『細雪』のような美人四姉妹が登場し、主人公と四女(高峰秀子)の恋が中心になっているが、おどろいたことに、太宰の原作は、四女の高峰秀子が、出てこない。
原作と映画の大きな違いだ。
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映画では、主人公の友人は軍人であり、主人公も航空機をつくっている技術者として描かれるが、原作の友人は軍人ではないし、主人公も、ただの学者のタマゴだ。
東宝が原作を、国策にあうよう脚色しているのがわかる。
特別優れた映画とはおもわないが、つくられた時代を考えると、勇ましくないところが救いかも。