かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

成瀬巳喜男監督『朝の並木路』(1936年)




『朝の並木路』は、「あしたのなみきみち」と読む。



「カフェの女給」の世界は、成瀬巳喜男監督の得意な素材ともおもえるが、後年の成瀬作品のような厳しさはない。


カフェのおかみさんも、友人も、主人公に終始やさしく、お金にシビアな側面はみせない。


主演の千葉早智子は、映画のはじまりから終わりまで、気品のある「お嬢さん」のままだ。



東京の暮らしに憧れる主人公の千代(千葉早智子)は、丸の内の会社で働いているはずの友人を頼ってやってきたが、その友人はじつは「カフェの女給」をして、生活をなんとかやりくりしていた。


千代は、友人のアパートに身を寄せ、東京で堅い仕事を探す。しかし、不景気で仕事がなく、まして何も知らない田舎娘を雇ってくれる会社はない。


結局、友人の働くカフェで、仕事がみつかるまでの間、女給の仕事をやることになる。



後半は、千代の恋愛が描かれる。


千代を目的にカフェに通ってくる会社員の男・小川(大川平八郎)に、千代も好意を募らせていた。


千代は、小川との結婚を夢見る。



ある朝、小川がカフェに千代を訪ねてくる。転勤が決まったという。それも栄転だ。


千代のなかに、「ぼくと一緒に来てくれませんか」と求愛する小川への期待が膨らむ。


しかし、小川は栄転で引っ越すことを千代に伝えると、新しい住所を書いたメモを千代に渡して、去っていく。


小川は冷たくもなかったが、千代への未練もみせなかった。


小川が去っていくと、千代はもらったメモを破って、川へ捨てる。


ラストシーンの苦い味に、成瀬巳喜男を感じた。