かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

「坊っちゃん」の面影〜夏目漱石のこと


坊っちゃん (岩波文庫)
もう詳細は忘れてしまいましたが、こんな話があります。



武者小路実篤の兄、武者小路公共(むしゃのこうじ きんとも)が何かの用があって、夏目漱石を訪ねた。そのときのことを公共は、後年回想している。


話のなかで、公共が、


「夏目さんのお書きになるものには、文章のなかに、深い知識やお考えがはいっておりますが、実篤の書くものは、思ったことをそのまま書くだけで、含蓄がありません」


というようなことをいうと、漱石は、、、


「武者小路さん、それは違いますよ。わたしだって、本当は実篤さんのように思っていることをそのまま書きたいんです」


と答えたという。


人間の心の深奥を懐疑的に描いた印象の強い夏目漱石だが、まっすぐに正直な生き方を愛したひとでもあった。


坊っちゃん』の主人公は、漱石の理想像でもあったが、実際に彼の一面でもあったろう。