かぶとむし日記

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小池静子著『柳宗悦を支えて 声楽と民藝の母・柳兼子の生涯』


柳宗悦を支えて―声楽と民藝の母・柳兼子の生涯
柳兼子のことも柳宗悦(やなぎ・むねよし)のことも、それほど知らなかったのでおもしろく読んだ。


民藝運動創始者柳宗悦と声楽の母・中島兼子の結婚。


芸術への強い愛を持つ二人の結婚は、理想的な夫婦誕生のようにも、想像された。しかし、宗悦は強大なエゴを持った気難しい男であり、結婚生活は、兼子を苦しめる。


兼子は、何度も離婚を考え、一度は自殺の旅へ出るほどに追い詰められる。西洋音楽への愛情が、彼女を死から思い留まらせた。


宗悦の芸術へのひたむきな熱情に、尊敬と共感をいだく兼子は、夫の活動資金を補うため、精力的に音楽会をひらいて、援助する。


しかし、自分のことしか考えない夫・宗悦は、家計のことを省みることなく、民芸品を蒐集し、本を買い漁る。家の経済を支えているのは、兼子だった。


なのに宗悦は、兼子の理解と協力をねぎらうこともない。


兼子は、柳宗悦の妻であると同時に、日本創成期の西洋音楽の牽引者でもある。ただ夫の意のままになる従順な妻ではなかった。


時には、夫と激しく衝突する。それが、宗悦をさらに頑なにした。


この本からは、芸術では共感しあいながら、事実上の夫婦としては破綻した、芸術家同士の<修羅>の姿が浮かび上がってくる。