かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

ルイ・マル監督『死刑台のエレベーター』(1957年)


死刑台のエレベーター
何度か見ているけど、なぜかいつも内容を忘れてしまう古典的サスペンス映画。


いっそエレベーターに封じ込められた主人公の何時間かを、リアルタイムで描いてくれたほうが、おもしろそうだ、とおもう。


エレベーターに閉じ込められた主人公は、殺人を犯した直後だ。朝までには、なんとしても、この殺人現場から遁れたい。


なのに、守衛からエレベーターの電源を切られ、逃げるにも逃げられない焦り・・・その精神的な緊迫感をうまく描けば、密室のすごい濃密感が出るだろう。


ミステリーの仕掛けは、若い男女が、主人公がエレベーターに閉じ込められたあいだに、彼のクルマを盗んでドライブしたことから、発展していく。


誤解から冤罪がつくられていく過程がおもしろくないこともないけれど、それほど綿密でもなく、残された写真ですべての真実が暴露されてしまう、というラストも、あざやか、というよりは、あっけない。


何より、つまらないのは、この若い男女の描かれ方だ。


そもそも彼らが、主人公のクルマを盗む動機が、希薄。


ただかっこいいクルマを、思いつきで盗み、それを同伴の女性も、あっけなく同調して、二人でドライブに出発する。


子どもではない年齢だ。クルマ泥棒がどういうことになるか、多少の想像はつくだろう、とおもう。


なんの覚悟もなく、あとで殺人まで犯してうろたえるが、あまりに彼らの知性が貧困で、あきれてしまう。


刹那的に生きる若者像を描くにしたら、もっと男女をきちんと創造的に描いてほしかった。


無考えの若者たちのクルマ泥棒から、このドラマが成立しているので、映画じたいが、むなしく見えてしまう。


作品の収穫は、ダルな雰囲気をもったジャンヌ・モローの陰影ある表情と、全編に流れるマイルス・デイビスの音楽。