『かもめ食堂』で荻上直子(おぎがみなおこ)監督を知り、それからファンになって『めがね』と、最新作の『トイレット』を見たけれど、まだこの『バーバー吉野』を見ていなかった。
なぜもっと早く見なかったのだろう、ということだけれど、この映画が荻上直子監督の作品だということを知らなかったのだ。
そして、見たら、やっぱりこの監督はおもしろかった。
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その町の小学生は全員「吉野刈り」という髪型をしている。
要するに、前髪をそろえた「坊ちゃん刈り」だ。町のひとたちも教員も生徒たちも、みんな、その「吉野刈り」を町の伝統であるとして、なんの疑問も持っていない。
ところが東京から転校してきた生徒が、「髪型は、それぞれ個人の自由ではないか」と、吉野刈りにすることを拒む。
はじめは校則に従わない転校生を仲間はずれにしながらも、しだいに、その転校生に共感して、子どもたちは、はじめて自分の町や、学校の伝統に疑問をもつ。
「吉野刈りはかっこ悪い。女の子にもてない」
吉野刈りに反対して、家出。町外れで過ごす5人の少年の姿は、あのロブ・ライナー監督の『スタンド・バイ・ミー』を彷彿させる。
荻上直子作品だから、強固な伝統否定映画ではもちろんないし、随所にユーモアがあって、おっとりしている。
なにしろ伝統推進派で、吉野刈りを信仰しているのが、もたいまさこ演じる理髪師なのだから、おもしろい。
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ぼくの中学校は、全員丸刈りの坊主頭だった。
「中学生は中学生らしく、清潔に」という理由で坊主頭を校則で定めていた。
中学3年生でビートルズを知ってから、この坊主頭がいやでいやで仕方なかった。坊主頭では、どう想像を巧みにしても、自分をビートルズのイメージとダブらすことができない(笑)。
「中学生らしく、ってなんだろう?」
学校へ反抗心をもやしはじめた、自分のむかしを思い出してしまった。
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この映画、ラストシーンもおもしろい。
小学校が吉野刈りの校則を廃止した。いままでのように、「バーバー吉野」に子どもたちは、頭を刈りにやってくるが、彼らのヘアー・スタイルは自由になった。
が、その店の誰も見ていないテレビでは、「最新の流行ヘアー・スタイル」として、外国人のモデルが、マッシュルーム・カット(吉野刈り)をしている映像が映されている。