小学生のころ、3本立ての映画館で怪談映画を見るのが好きだった。「四谷怪談」、「牡丹灯篭」、「累ヶ淵(かさねがふち)」、「番町皿屋敷」、化け猫もの、さらには現代もの(ひとのいない大きなビル、警備員が深夜の見回りをしていると、誰もいないはずの部屋からタイプを叩く音が聞えてくる・・・なんてのも怖かった)など、夏になると毎年お化け3本立てがかかるので、楽しみにしていた。
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中川信夫監督の『東海道四谷怪談』(1959年)、『怪談累ヶ淵(かさねがふち)』も、そういう雑多な怪談映画のなかの1本としてみたのにちがいないけれど、段々に記憶のなかで鮮明になって、それから、もう一度見直して、この監督のファンになってしまった。
『四谷怪談』は、いろいろな監督が映画化しているなかで、ずっと毛利正樹監督の『四谷怪談』(1956年、主演若山富三郎、相馬千恵子)が好きだった。
この白黒映像の「四谷怪談」を、いまでも中川作品以外を選ぶとしたら、真っ先にあげたい。若山富三郎の伊右衛門も、天知茂に負けぬくらい、見ているものを興奮させる。
簡単にわけると、毛利版『四谷怪談』は白黒映像が似合うリアリズムの傑作怪談映画であり、中川版の『東海道四谷怪談』は、耽美的なシュールリアリズムの映像が、作品の魅力になっている。
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地獄はどんなところだろう、と子どもながら、あれこれその光景を空想した。
だから、中川信夫監督の『地獄』が公開になったときは、父に連れられてすぐ見にいった。さすがに子どもには刺激が強く、しばらくは映画で見た地獄のシーンが、頭にこびりついた。
お祭りにやってくる見世物小屋のような楽しさをこの映画に感じたのは、20代になって、もう一度見たときで、子どもではそんなゆとりのある見方はできなかった。
『東海道四谷怪談』も『地獄』も、新東宝という低予算づくりがモットーの映画会社で、安く・素早く撮った作品だという。
それが中川信夫の場合は、マイナス要素とならず、B級映画でしか持ち得ない禍々しい魅力を放つことになったのは、どういうことなのか。
『東海道四谷怪談』よりも、『地獄』に、低予算ならではの見世物小屋感覚が、いい意味で結実している。
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『地獄でヨーイ・ハイ!〜中川信夫怪奇・恐怖映画の業華』は、出演者、スタッフのインタビューから、中川信夫監督の素顔、その資質、天才性をとらえようとしたもの。
中川監督は、俳優にはむずかしい演技を要求することなく、ドシドシ予算内で映画を撮っていった、という。
「OK!」が出ても、演技がよかったのか、気にいってくれたのか、無口な中川信夫監督は、あまり感想をいってくれない。
撮影が終わると連日の宴会がはじまる。現場では無口な監督が、お酒がはいると陽気にしゃべった。