かぶとむし日記

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成瀬巳喜男監督『女が階段を上がる時』(1960年)

女が階段を上る時 [DVD]

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高峰秀子の映画を何か見たくなり、見る。この映画、はじめて見たときもすごいな、とおもったが、今度もすっかり感心してしまった。


個人的にみればじぶんなど、銀座のママも、そこを社交の場とするような男たちとも、まるで縁がない(笑)。だから、映画で扱う素材じたいに興味があるわけではない。


それでも、この映画に登場する何人かの女性も、そこへ集ってくる男性も、鮮やかに描きわけられていて、見入ってしまう。



中小企業の社長(加東大介)の口説きに、まんまと乗ってしまう圭子(高峰秀子)は、観客が見ていてもムリがない。安手のドラマなら、あらかじめ加東大介にあやしいそぶりを複線として張るのかもしれないが、成瀬巳喜男は、そんなこざかしいことはしない。


観客も圭子も彼の善良そうな<結婚詐欺>にひっかかり、唖然とする。騙している本人も、狡猾というよりは、心の病気のようなものかもしれない。加東大介がその役にぴったりだった。


金持ちの中村鴈治郎、銀行に勤める森雅之、狡猾そうな多々良純、マネージャーの仲代達也・・・ひとりひとりの脇役男性陣の演出もキメが細やかだ。成瀬巳喜男は、きちんとひとりひとりを描き分けている。



圭子は、平凡な結婚を決意したが、すぐにそれが結婚詐欺であることが発覚する。くわえて、好きな男(森雅之)は転勤で関西へ去っていく。


最後まで、圭子の境遇に安易な救いはない。成瀬巳喜男の厳しいリアリズムである。


ラストは、圭子を演じる高峰秀子が、階段の途中で、商売のための笑顔をこしらえて、バーの二階に上っていく。


自然で余韻のある終わり方に、見惚れてしまった。