かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

三宅喜重監督『阪急電車 片道15分の奇跡』(公開中)

場所を限定する話、というのは好きなので見にいく。




宝塚〜西宮北口間を約15分で走る、えんじ色の車体にレトロな内装の阪急今津線。その電車に、さまざまな“愛”に悩み、やりきれない気持ちを抱えながら、偶然乗り合わせただけの乗客たちがいた。


(「goo映画」の解説から)


悩みをかかえたひとたちが、偶然乗り合わせた「阪急今津線」のなかで少しだけ知り合い、心を癒されていくというストーリー。


複数の登場人物をからめて、あたたかい物語がつくられている。もし自分がこの沿線を日常利用していたら、さらに映画をこまかく楽しめそうな気がする。あれやこれや映画のなかに映る町並みについて誰かにしゃべりながら。


しかし、同じくある特定の町を想定して描いた、熊切和嘉監督の『海炭市叙景』とはずいぶん趣がちがう。『海炭市叙景』は、見たあとも心の奥にトゲがささった。


阪急電車 片道15分の奇跡』は、あたたかい結末が最初から予感されて、そのとおりになる。人生の機微に触れているようだが、あたりまえの良識を一歩も出ない。


メルヘンだから、それでいいのかもしれないが、余韻は映画館を出るまでで、心にあとをひくものはなかった。