- 作者: 下岡友加
- 出版社/メーカー: 笠間書院
- 発売日: 2007/03/01
- メディア: 単行本
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著者略歴をみると、著者の下岡友加(しもおか・ゆか)は、1972年生まれ。38歳か39歳の若さだ。
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志賀直哉は、よく「事実をそのまま描いた」という言い方をする。志賀がそういうと、読者も研究者もそのことをうのみにして作品を論じる。
しかし、著者・下岡友加は、事実をそのまま描いただけで、読者に強い感動を与えられるものだろうか、そこには何か<志賀直哉の方法>というものがあるのではないか・・・そんな視点から作品を読み込んでいく。
例えば、第一章は「城の崎にて」。論じ尽くされたかのような気がする短編である。
いもりの死について、こんな指摘がある。
主人公は、ある離れた距離から狙うでもなく石を投げる。その石が、偶然いもりにあたる。
志賀直哉の文章を引用すると、、、
最初石が当ったとは思はなかった。いもりの反らした尾が自然に静かに下りて来た。するとひぢを張ったやうにして傾斜にたえて前へついてゐた両の前足の指が内へまくれ込むといもりは力なく前へのめって了った。
一定の距離がある、離れた地点から、これほど詳細にいもりの様子が見えるものだろうか。その位置から見えたものを、ただそのまま描いているとはおもえない。
志賀の描写は、対象をクローズアップして描いている、と著者は指摘する。
なるほど。なんどもこの短編小説を読みながら、わたしはそのことに気づかなかった。ちゃんと眼をひらいて読めば、気づくようなことなのに。
こういう小さな、しかし鋭い発見が、下岡友加著『志賀直哉の方法』には、次々出てくるのでたのしい。