かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

ヤン・ヨンヒ監督『かぞくのくに』(公開中)


ドキュメンタリー「愛しきソナ」で知られる在日コリアン2世のヤン・ヨンヒ監督が、自らの体験を題材に、国家の分断によって離れ離れになった家族が傷つきながらもたくましく生きていく姿を描いたドラマ。


北朝鮮の「帰国事業」により日本と北朝鮮に別れて暮らしていた兄ソンホと妹リエ。病気療養のためソンホが25年ぶりに日本へ戻り、2人は再会を果たす。異なる環境で育った2人がともに暮らすことで露呈する価値観の違いや、それでも変わらない家族の絆を描き出していく。妹リエに安藤サクラ、兄ソンホに井浦新ARATA)。


(「映画.COM」の解説から)


8月11日土曜日、東京で上映している映画館を探したら、「テアトル新宿」しかやっていない。


引っ越し先のアパートの片付けにやってきた家人と「テアトル新宿」へ行こうとしたら、人身事故で電車が止まっている。


振替輸送を利用し、遠回りして新宿三丁目へ出る。


何時に映画館へ着くか見当がつかなかったが、2回目の上映、12時15分の本編にギリギリまにあった。



25年前、北朝鮮へいった兄が脳腫瘍の治療のため日本へもどってくる。家族や親戚との再会。妹は、ハシャギながら兄を迎え、母は泣きながら、息子を迎える。


しかし、兄ソンホを演じる井浦新は、表情に変化がなく、笑うこともすくない。


むかしの恋人や友人たちが、ソンホの歓迎会を催してくれる。


「むこうではどんな暮らしをしている? 家族は? 仕事は?」と聞かれても、ソンホは自分のことを語ろうとしない。


ソンホの家の前には、クルマが1台とまっていて、ソンホの行動を監視し続けている。



40代の女性監督は、兄の帰還を、日常の家族ドラマのように淡々と描いていく。


日本での治療に許された期間は、3カ月の予定だったはずが、急に「明日帰国するように」という指令がおりる。その理由はわからない。


「なんで?」と、声を失う妹や母に、ソンホは「あのくにでは、よくあることなんだよ」と、おどろく様子もない。


理不尽さへの怒りも家族の悲しみも、「あのくにでは、よくあることなんだ」のソンホのあきらめの言葉のなかに圧縮されてしまう。


「わたし、あなたもあのくにも、大嫌いよ」と妹のリエは、ソンホを監視する男に、怒りをぶっつける。


「ユン同志(ソンホ)もわたしも、そのくにで死ぬまでいきていくんだ」と、男は答える。


25年ぶりの帰還は、数日間で突然遮断され、ソンホは北朝鮮へ帰っていく。



ロケシーンが多く、ついついどこで撮影されているのか背景に目がいってしまう。


先日、川本三郎さんが、「キネマ旬報」の連載に、赤羽の岩淵水門が映画のなかに出てくる、と書いていた。そこは川本三郎さんの、誰にも教えたくない、散歩の穴場だと書いている。川本三郎さんが、赤羽の岩淵水門まで足をのばしているとは、うれしいおどろきだった。


わたしも、立ち飲み「いこい」の酔い覚ましに、岩淵水門までよく散歩する。そこは小さな島になっていて、ほとんどひとがいない。荒川と隅田川が合流する川面を眺めながら、昼寝したりする。


映画のなかでは、どう描かれているのか・・・


むかしの恋人とデートするシーンに、登場した。川本さんの指摘を読んでなかったら、見過ごしてしまったかもしれない。


茶色いさびた鉄でつくられたふしぎなオブジェが、わずかに背景に映っているのが、わかった。


待ち合わせの最初のシーンの背景に出てきたのは、王子の「名主の滝」の門前だろうか。いっしゅん映るだけだから、特定するほど自信はないが・・・。


デートのなかで、「無口になったね」と、むかしの恋人はいう。ソンホが突然「あした帰らなければならない」というと、彼女は最初その意味がつかめず、少しして、「そんな・・・」といって絶句する。


ここでも、ソンホは「あのくにでは、よくあることなんだ」といったような気がするが、それは印象的なセリフだったので、わたしのなかで繰り返されただけで、映画のそのシーンで、ほんとうにいったのかどうかは、もう一度見てみないとわからない。