かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

里見弴・小津安二郎共同脚本『青春放課後』(1963年)


里見弴と小津安二郎が共同で、こんなテレビ・ドラマを作っていたとは?


何も知らなかったので、まずこのドラマが存在していたことにおどろいてしまった。


予備知識を得ようとネットを検索してみたら、宮本明子「『青春放課後』制作の過程」というのがヒットした。ドラマができるまでの経過が詳しい。


宮本明子さんは、次のような当時の毎日新聞の記事を引用している。

適齢期を過ぎようとするひとりの娘の結婚に対する心情の変化を描く。夫を早く失い京都で小料理屋を開いているせいのひとり娘・千鶴は、すでに年ごろを過ぎようとしている。せいは何とか娘をとつがせようと縁談をもちかけるが千鶴はなかなか承知しない。


そんなある日、すでに結婚している同級生・三枝子の家をたずねた千鶴は、彼女の楽しそうな生活をみて、何か空虚な気持に襲われ、父の友人の秘書・長谷川をバーによび出した。


主人公の女性・千鶴は小林千登勢。千鶴が好きになるのに、すでに結婚する相手がいるのが佐田啓二


周囲を固める脇役は、小津映画では常連の北竜二、と宮口精二宮口精二は黒澤作品のイメージのほうが強いので、少し違和感がある。


さらに、北竜二の奥さんが杉村春子で、宮口精二の妻役が三宅邦子とくれば・・・もう小津映画そのもの。


晩年の里見弴と小津の交流が想像されるように、ドラマは全編お酒を飲むシーンが連続して、笑ってしまう。


あたたかい思いやりを持った大人たちのなかで、小林千登勢演じる若い女性が、つまずき悩みながら、自分のこころに正直に生きていく姿を描いていく。


千鶴の不器用でも正直な生き方は、どこまでも自分に忠実であろうと生きた、里見弴の「まごころ文学」のテーマとも重なって、興味深い。