- 作者: 宮本輝
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2013/10/04
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
最初読んだのは、出版されてからすぐだったので、いつだったかネットで検索してみたら、1982年3月だった。感動し、身近な人に、進めた。
で、いま読んだら、どうだろう?
蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、まさかあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした。私は驚きのあまり、ドッコ沼の降り口に辿り着くまでの二十分間、言葉を忘れてしまったような状態になったくらいでございます。
若い頃、心が片付かないまま別れてしまった元夫婦のふたりが、蔵王で偶然再会する。しかし、言葉を交わすわけでもなく、あっけなくすれ違ってしまう。
そのままだったら、何も起こらなかったかもしれない。
★
ところが女は迷いながらも、再会のおどろきを手紙にしたためて男に送る。男の返信があり、ふたりの往復書簡がはじまる。
先の引用は、女の手紙の書き出しであり、小説の冒頭文でもある。
長い手紙のやりとりの中で、過去の出来事や互いの心情が明らかにされ、ふたりの心が少しずつほぐれてくる。
愛情も冷めきっていないふたり、もう一度やり直すことができるのではないか。ふたりを遮る障害はなくなったようにみえ、ハッピーエンドになることを、ひそかに願いたくなる。
はじめて読んだときは、そんなセンチメンタルな共感でいっぱいだったのだが・・・今回は、後半に登場するもうひとりの女性にも心惹かれた。
★
お嬢さんだった主人公の女性とは好対照の・・・男のいいなりで、男にとって都合のいいようなその女性が、後半グングン存在感を増してくる。
彼女の「うち、あんたの奥さんやった人を好きや」というセリフには、今回も心を撃たれた。
★