かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

半村良著『軍靴の響き』を再読。


軍靴の響き (祥伝社文庫)

軍靴の響き (祥伝社文庫)


1972年に出版された、まだまだ現在のように日本が右傾化する以前に書かれた近未来小説。タイトルの「軍靴の響き」とは、もちろん戦争の足音が近づいてくることを表している。


いまの時代は、『軍靴の響き』がもっとハッキリと聞こえてきそうではないか、とおもい、この昔読んだSF小説を読み返してみた。


42年も経って読み直すとどうだろう?


読みはじめていきなり「濡れ場」で、そういう記憶はほとんど失われていた。ところが、読んでいくと、美しい女性が登場すると、すぐ「濡れ場」が展開する。あれっ、こういう小説だったかと、ちょっとおどろく。


近未来の話といっても、都知事はあの極右知事の前の革新系知事の時代だったし、首相も現代のような憲法破壊の独裁者ではない。


むしろ、経済の原理によって、戦争がちかづいてくる仕掛けだ。もっとも現代だって、奥には経済の原理が強く働いているのだろうけれど。



いちばん記憶に鮮明に残っていたのは、「徴兵制度復活」の描き方。これならあり得るかもしれない、と、当時思ったものだ。


18歳になると「予備登録」の制度が設けられる。これは任意であって、強制ではない。ただ、大企業やエリートコースを志望するひとたちは、この「予備登録」に合格していないと、就職活動がきわめて難しい。


戦争の足音は、いますぐではないように感じられる。みな、その危険をさほど自分の身近なものとは感じていない。殺し合いにいくのは、自衛隊だけだ、と漠然おもっている。いやいや、たぶん、戦争は起こらないだろう、と。


「いざとなったときのため、自分の家族や恋人のために立ち上がりましょう!」と、「予備登録」の募集を受けたら、若いひとたちはどうするのか。そして、それがないと、就職活動もままならない、としたら。


この小説では、親たちの反対をよそに若者が次々「予備登録」をすませていく。だれも「軍靴の響き」が近づいていることに、気がつかない。


最終章だけは、昔も今も同じ怖さを感じた。