かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

林芙美子『浮雲』を読む。


現代表記 浮雲

現代表記 浮雲


電子書籍で読む。


成瀬己喜男監督の代表作『浮雲』の原作でもある。

第二次大戦下、義弟との不倫な関係を逃れ仏印に渡ったゆき子は、農林研究所員富岡と出会う。一見冷酷な富岡は女を引きつける男だった。本国の戦況をよそに豊かな南国で共有した時間は、二人にとって生涯忘れえぬ蜜の味であった。そして終戦。焦土と化した東京の非情な現実に弄ばれ、ボロ布のように疲れ果てた男と女は、ついに雨の屋久島に行き着く。放浪の作家林芙美子の代表作。


(新潮文庫の解説より)


南国で燃え上がった情熱が、国に帰ってからは憑き物が落ちてしまったように燃えない。ダラダラと恨みと憎しみでつながっているような女と男。このダラダラ感のリアリズムに共感してしまった。男よりも女の方が、執着が強く、最果ての屋久島まで男のあとを追っていくが、女は病み、死んでしまう。


どこまでも暗く救われない男と女の物語。でも、この何があっても離れられない男女の関係が、究極の「愛の形」とみえなくもない。