かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

滝口悠生さんの短編に出てくる、秋津町の立ち呑み屋へいってみる(2月10日)


滝口悠生(たきぐち・ゆうしょう)さんの『寝相』という単行本がおもしろい。滝口さんのはじめての単行本だそうで、「寝相」、「わたしの小春日和」、「楽器」の3つの短編が集録されている。


寝相

寝相


はじめ日常の些細なことを書いているので、身辺雑記的な小説かと思いながら登場人物につきあっていると、だんだん見ている風景がおかしなことになってくる。いま見える景色が本物なのか幻影なのかもよくわからなくなってくる。回想も複雑に錯綜するので、読むのがむずかしいか、というとそんなことはなくて、むしろ文章のなかにユーモアがほんのりあって、ときどき噴き出してしまうのだ。


人物だって、「私」という語り手がいるのに、平気で他の登場人物に視点が移動していくので、「こういうのありかな」っておもったりするけど、小説に決まった法則なんてないはずだから、規則破りとかルール破りに出会うのはちょっとたのしい。


3編のなかでは「わたしの小春日和」で、いちばん笑った。


滝口悠生さんは、1982年10月18日生まれ。いま32歳の若さ。これからどんな作品を出していくのかたのしみだ。



この『寝相』のなかの「楽器」という短編は、「私」がなんとなく集まってきたひとたちと、東村山市の秋津町へ<マリーという女性が電車の窓から見た沼>を探しにいく話。


ところが秋津の町を歩いてもその沼が見つからない。もう何年か、なんとなく集まってみんなで秋津町へ沼を探しにいく、そんな<秋津の散歩>が恒例になっている。


毎年参加メンバーが変わるので、なかには<マリーという女性が電車の窓から見た沼>を探す、という当初の目的を知らないひとも参加していて、それでもみんなの秋津散歩は、続いている・・・と、そういうふしぎな短編だ。



ところで、この西武池袋線秋津駅の近くに「立呑み屋」があって、登場人物たちが昼間から立ち寄るシーンがある。この立呑み屋がフィクションなのか実在しているのか気になったので、インターネットで「秋津」「立飲み」「昼から飲める」のキーワード検索してみる。すると、「もつ家 本店」という立ち呑みのお店がヒットした。秋津へいくと、必ずこのお店で一杯やる、なんて心をそそるコメントなどが出ている。これが滝口悠生さんの小説の「立ち呑み屋」であるという確信はないのだけれど、やっぱり気になる。


それで2月10日の昼に東武練馬のアパートを出て、秋津町へ向かう。


東武東上線朝霞台駅乗換え、北朝霞駅から武蔵野線新秋津駅下車。


新秋津駅から西武池袋線秋津駅までは商店街を歩いて5分くらい。で、その立ち呑み「もつ家 本店」へたどり着いた。秋津駅の真ん前で、カウンターだけの、7〜8人はいればいっぱいになりそうな小さなお店。


ここが滝口悠生さんの小説に出てくる立ち呑み屋かどうか依然わからないが、そうであることを願って、まずは酎ハイでひとり乾杯!


お店を出てから、あてもなく、滝口さんの作中人物をまねて、秋津町を散歩してみた。