かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

奥田英朗著『沈黙の町で』を読む。


沈黙の町で

沈黙の町で


家人が「読みおわるのがもったないくらいおもしろいよ」というので、電子書籍で読んでみる。




中学2年の男子生徒が部室棟の屋上から転落し死亡した。
事故? 自殺? それとも他殺なのか……?
やがて生徒がいじめを受けていたことが明らかになり、
小さな町に波紋がひろがり始める。


(「Amazon」のブック紹介より)


主要の登場人物が多い。

  • 被害者と被害者の親・親戚たち。
  • 加害者たちと、それぞれの親たち。
  • 学校の校長や教頭、学年主任。
  • 部活の担当教員やクラス担任。
  • 刑事、検事、弁護士。
  • 事件を取材する女性記者


など・・・多種多彩だけれど、どのひとも、いわゆる<その他大勢>ではなくて、ひとりひとりしっかりと書き込まれている。


自殺なのか、殺人なのか、事故だったのか・・・容疑者とされる子どもたちや周囲の証言もくいちがい、なかなか事件は明らかにならない。


といっても、この小説は、犯人捜しのミステリー小説ともいえなくて、子どもたちの複雑怪奇ないじめの世界に分け入る興味も尽きないし、被害者と加害者、双方の親たちの深い心の傷の描写も、通り一遍ではない。



途中まではおもしろいのに、最後の謎解きでがっかりする、そんなミステリー小説にであうことがある。


描かれた人物や事件の細部がとてもリアリティがあるのに、事件の解決がはじまったとたん、それまでを裏切るような<真相>が暴かれて、登場人物がそのつじつま合わせの犠牲になってしまうような作品。いっそミステリーでなければよかったのに、とおもったりする。


しかし、『沈黙の町で』は、そういう謎解きに登場人物が犠牲になることはなくて、「あ、そうか」とおもうような自然な終わり方で、ほっとした。


奥田英朗、恐るべし。