かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

是枝裕和著『映画を撮りながら考えたこと』を読む。


映画を撮りながら考えたこと

映画を撮りながら考えたこと


ハード・カバーで、400頁を超えるヴォリューム。でも、分量以上に、内容がすごい。是枝裕和監督が自分のこれまでつくったテレビのドキュメンタリー、映画全作品(最新の『海よりもまだ深く』まで)について、制作の動機、背景、撮影の裏側、完成後の反響まで、詳細に書き尽くしている。こんな本と出会えるなんて、ファンにはたまらない。


是枝作品をずっと見てきて、このひとは抽象的な映画論やテーマを語らずに、作品ひとつひとつを丹念につくりあげていくひとではないか、と勝手におもっていた。たとえば、溝口健二監督、小津安二郎監督、成瀬巳喜男監督などは、いわゆる「映画とは何か?」という問いかけなどにはさほど興味があるようにはおもえないし、是枝裕和監督も、そういうひとではないか、とおもっていたけれど、それは勝手な誤解だったとわかった。


是枝作品のひとつひとつが、挑戦したい方法論やテーマなどがまずあって、映画になっている、ということは意外な発見。というのは、完成した是枝裕和監督の作品はどれも抽象的だったり観念的だったりするようなところがないし(テレビのドキュメンタリー作品は見ていないのでわからないが)、テーマもひとつに限定されるようなものではなく、見ている観客のひとりひとりがどう受け取ってもいい、どう解釈してもいい、そういう作り方になっているから。


もっともご本人も、映画がおわったら万事解決ではなく、映画の登場人物ひとりひとりがそのあともどこかで生きているようなそういう終わり方にしたい、とはいっている。


そういうあいまいな終わり方が好きなわたしは、勝手に是枝裕和を、作品論を語らない小津安二郎成瀬巳喜男の後継者のようにおもっていたけれど、是枝監督は映画に対して、作品に対して、もっと論理的だし、自覚的、という一面はこの本を読むまでわからなかった。


というわけで、是枝監督の自作論としても興味深いけれど、是枝監督の作品の舞台裏をのぞくたのしみもある。