かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

川本三郎著『老いの荷風』と「女優 嵯峨三智子」特集(12月11日)。

12月11日、月曜日。川越を出て、「シネマヴェーラ渋谷」へ、「女優 嵯峨三智子」特集を見にいく。12月4日に次いで2回目。


早く映画館の近くに着いたので、喫茶店で読書。読みかけの川本三郎著『老い荷風』を読む。書き下ろしとこれまで雑誌で発表したものなどをあわせて編集した1冊。


老いの荷風

老いの荷風


川本三郎氏の文章やタッチが大好きだし、内容も川本さんの好きな荷風についてであれば、おもしろくないわけがない。わたしは、永井荷風の作品をそれほど読んでもないのに、周辺知識が増えていく。川本さんのレンズで見る永井荷風像。これだけではいけない、と反省し、電子書籍をはじめ、荷風の本を集めはじめる。12月16日(土)には、市川へ「永井荷風展」(川本三郎監修)を見にいくつもり。



この日の映画は、番匠義彰監督『浮気のすすめ 女の裏窓』と、堀内真直監督『色ぼけ欲ぼけ物語』。どちらも、主人公は伴淳三郎

番匠義彰監督『浮気のすすめ 女の裏窓』(1960年)。



伴淳を誘惑する嵯峨三智子。

(女性)事務員を社長の魔の手から救って首になり、売春斡旋をするはめになった伴淳は・・・。女性たちから言い寄られ、目を白黒させる純情で気が良い伴淳の魅力が溢れる一本。嵯峨はブルーフィルム撮影目当てで伴淳を誘惑する喪服の女を演じる。


(「女優 嵯峨三智子」のパンフレットから)


正直に生きる伴淳の主人公は、女性たちの誘惑にも、負けない。伴淳がとてもいい。この俳優本人が無類の正直者なのではないか、とおもわせるようなリアリティがある。そうでなかったとしたら、伴淳という喜劇俳優、よほどうまいのだろう。のちに、内田吐夢監督の『飢餓海峡』(1965年)で、シリアスな刑事役で名演技をみせるのも、ふしぎでない。


伴淳を誘惑する女優は、貫禄のでかかった金持ちマダム・高峰三枝子と嵯峨三智子。嵯峨三智子の喪服姿、美しい。このふたりの誘惑に屈しない伴淳にリアリティがなければ、成立しない喜劇。


それから、若き岩下志摩の爽やかな美しさも、うれしい。こんな可憐な女性事務員を毒牙にかけようとする社長はとんでもない悪い奴。そこを、伴淳が危機一髪救う。そして、うらやましいことに、伴淳は、岩下志摩から恋されてしまう。



伴淳は、女性事務員・岩下志摩から恋される。




堀内真直監督『色ぼけ欲ぼけ物語』(1963年)。


戦後、冴えない暮らしをしている戦友たちの前に現れた元副隊長は、中国から持ち込まれた三億円のダイヤの話を持ち掛け・・・。


伴淳三郎伊藤雄之助有島一郎らの名優に加え、菅原文太(若い!)、鰐淵晴子(可愛い!)など意外な役者が揃った人情譚。嵯峨は伴淳をたらし込んで一儲けしようとする女掏摸を演じる。


(同、パンフレットから)


伊藤雄之助は、どの映画をみても存在感がある。あの異様に長い顔が印象に残る。当時、きっと貴重な脇役俳優だったのだろう。黒澤明監督『生きる』(1952年)、川島雄三監督『しとやかな獣』(1962年)の名演・怪演がすぐに思い浮かぶ。


登場人物たちは、戦場で命を分かちあった戦友たち。ストーリーからも、戦争の痕跡を深く感じられる作品。その戦友たちを騙して、大儲けしようとするのだから、伊藤雄之助は、悪い奴! しかし、善良な伴淳の目をごまかすことはできない。


鰐淵晴子、可憐な姿が記憶のなかからよみがえった。きれいだったなあ。記憶に残る作品としては、川頭義郎監督の『伊豆の踊り子』(1960年)がある。学生役は、津川雅彦。役者はよかったものの、原作が改変されているのが残念。しかし、鰐淵晴子の踊り子姿は、見る価値がある。


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鰐淵晴子の「伊豆の踊り子」。


この映画で、ひさびさに鰐淵晴子の美しい姿を拝めた。



帰り、センター街の立食い寿司に寄って、アパートへ帰る。